Barry Davis 氏 × 韮原光雄 対談
“Changing Assessment role and Future expectations”
【後編】
アセスメントの進化
ー世界、そして日本を先端技術と教育によって前進させるー
長きに亘り個々のタレントやスキルと向き合い、人々、そして多くの組織に成長のヒントを与え続けているこの領域の専門家は、現状の変化をどのように捉えているのでしょうか。
米国Wiley社の上級執行役員であるBarry Davis氏と、そのWiley社のアセスメントツール「DiSC®」の日本版製品を30年前から扱うHRDグループ代表・韮原光雄の両専門家による対談により、ヒントを得て行きます。
対談の後編では、市場の変化と新たな需要を掘り下げます。先端技術による開発プロセス変化がもたらす意外な世界と日本市場との繋がり、そして、アセスメントの未来について探っていきます。
最先端の教育テクノロジーを吸収するWiley
N: Wiley社のビジネスに関して、他にも興味深いお話があります。Wiley社といえば、ニューヨーク株式市場に上場した最初の企業の一つですよね。学術出版にルーツを持つ、長い歴史のある企業です。そんなWiley社が、小さなスタートアップ企業を買収しましたね。Zyante社という若い会社で、zyBooksというプラットフォームを作った会社なのだと伺いました。
D: ええ、そうです。このプラットフォームは、学生が理系教科、つまり科学、技術、工学、数学で成果を出すことを助けるようデザインされているものなのですが、この買収には大きな理由があります。
まず、Wiley社は現在、「世界を調査研究と教育によって前進させる」という明確な戦略とミッションを持っています。
そして実際にWiley社は研究、またその共有の先頭に立つプラットフォームを持っています。じつに全世界の50%以上の研究がWiley社のプラットフォーム上にあるのです。これは驚くべき膨大な数の研究です。世界の半分の研究がWiley社によって組織化され、支えられているわけです。調査研究こそが世界を牽引しますから、Wiley社はその先端にいると考えています。多数のノーベル賞の受賞者たちも、私たちが資本を持つ出版社から書籍や論文を発表していることはご存知だと思います。
そして、世界を前進させるための力の、そのもう一方が教育なのです。Wiley社は、韮原さんがおっしゃったようにとても長い歴史のある会社です。教育に注力して約200年になります。しかし私たちは、近代化する必要性を理解していました。スマートフォン時代の企業にならなくてはなりません。それでテクノロジーを手に入れ始めたのです。
N: テクノロジーの時代においても最先端にいるため、積極的な買収を行っていると。
D: ええ。その通りです。このZyante社は、2012年にコンピューター・エンジニア、ソフトウェア・エンジニア、コンピューター・サイエンティストによって設立された、まさに最先端の会社です。私たちは設立7年という若い会社によるパブリッシング・テクノロジーを買収し、そしてそれは、学習分野の最前線で早速成果を出し始めています。ですからこれは、つねに研究と教育の両方においてテクノロジーの最先端にいるというWiley社のコミットメントの一例なのです。
N: なるほど、よくわかりました。提供されるツールをただ使うだけになってしまいがちな学習者やパートナーにとっても、とても貴重なお話になりそうです。プラットフォームとしてのWiley社、そしてテクノロジーは未来に向けてシフトしているわけですね。
D: ええ。また、テクノロジーが次々に進化していく時代だからこそ、「教育」を扱う私たちにはこんなチャンスもありますよ。
かつては大学が教育を受ける場であり、それが終わると仕事に就いて、それで教育は終わりでした。あとはキャリアを築くことにすべてを費やすだけです。しかし今や、教育は継続するのです。なぜなら、大学は今から5年後に知る必要があることを教えられないですよね。まだ存在していない知識だからです。今や5年もあれば、テクノロジーで世界は変わってしまいますから。
ですから、この継続する学習、または大学を超えた学習は、企業での教育であり、仕事を得たあとの学習であり、再訓練でもあります。卒業後に学習に戻ること、再訓練すること、またはスキルアップという概念は、世界を変え始めました。この変化はWiley社にとってチャンスであり、パートナーにとってもチャンスなのです。
デジタル技術の進展で高まる「人間力」の重要性
N: おっしゃる通り、変化から得られるチャンスがありますね。AIに代表されるテクノロジーがHR領域のマーケットにも拡がり、きっと次々にエキサイティングな体験ができるのでしょう。これからが楽しみです。なお、AIやその他システムによって合理化が進むと、人間が不要になるという説もありますよね。
これについては、私たちはAIやHR技術の産業をどう捉えるべきでしょうか?
D: ええ、よく耳にしますね。機械に仕事を奪われる、と。ですが私は、このような時代だからこそ、「人間力」がより重要になっていくと考えています。具体的には、対人関係の力やクリティカル・シンキングの力、そしてものごとを刷新する能力、ストーリーを語る能力、といったものです。
つまり、人間をAIに置き換えるということではまったくなく、「AIをどのように適用するか」を真剣に考えるべきなのです。ですから今この時代は、人間の仕事がどうなるのか、機械の仕事がどうなるのかについて理解していく、とても興味深い時代だと思います。
N: なるほど、そうですね。たしかに、合理化しきれない人間的な接点が、これまで以上にビジネスの価値創造の中心になると思います。人間がより人間らしく、ヒューマンスキルが重要になる時代になっているといえますね。
D: おっしゃる通りです。「ヒューマンスキル」こそ、求められます。重要性の低い仕事や繰り返し作業を機械が取って代わるようになることは間違いないでしょう。ちなみに、おそらく日本はHRにおけるAI活用分野で世界のリーダーになるだろうと推測していますよ。
N: ええ、そしてこれからますます拡がるでしょう。とはいえ、勘違いしてはいけないのが、アセスメントツールは、人間が行う判断を代わりに行うアルゴリズムは持っていませんよね。私たちのアルゴリズムは、私たちの判断と組み合わせるための優れた情報を提供するものです。ですから、ここでもヒューマンスキルが必要な場面はなくならないと思っています。
D: ええ、そうですね。そして、アセスメントツールを提供する私たちは、例えば採用という重要なプロセスの妥当性のため、正しく役立つものを作らなくてはいけませんね。大切なのは信頼性であり、妥当性であり、統計に基づいた基準です。私たちのミッションは、人間の判断を凌駕することや、人間の判断を別のものに置き換えることでは決してありません。これは極めて重要なポイントだと思っています。
認知科学や機械学習によるアセスメント進化の可能性とは
N: さて、AIやRPA同様、認知科学と神経科学の研究成果も、あらゆる分野において革新をもたらしていますね。例えば、認知科学に裏付けられた「行動経済学」を基に、伝統的な経済学が今まさにアップデートされています。
現在Everything DiSCやProfileXT®の結果は統計心理学に基づいていて、あくまでも脳や心で、実際にどのような反応や作用が起こっているのかは、ある種ブラックボックスとして扱う学問体系を前提としています。将来、アセスメントは脳や心の反応を扱う新しい神経科学や認知科学を適用して、アップグレードされるのでしょうか?
D: これについて、Wileyはまさに新しい取り組みをしていますよ。18か月ほど前からですね。教育に関係する神経科学により深く投資をしています。博士号取得者たちと仕事をしているのです。マシン・ラーニングとAIに関しては、私たちは基となるデータを大量に持っていますから、それらを活用しています。一つのプラットフォームで100万名分もあり、複数のプラットフォームがあるので、サンプルには困りません。
N: 研究はまだまだこれからだとは思いますが、この18か月で発見したことなどはあるのでしょうか?
D: そうですね、実は、私たちが持つ教育法の、いくつかの前提を変える必要があるということがわかってきました。今までに理論家たちが予測したことは、新しい脳科学が示していることとは異なっていたのです。ですから、私たちは修正を加え、試しながら研究を進めています。とはいえその結果となる教育効果をどう測定するか、というのも難しい課題ですね。その点も研究を続けているところです。
N: ありがとうございます。研究をアセスメントツールに応用する未来も近そうですね。HR業界はテクノロジーに対して保守的だと言われますが、Wiley社がけん引している印象です。
D: ええ、でも、これはイノベーションのほんの始まりだと思います。控えめでなく、本当に始まったばかりです。Everything DiSCであれ、ProfileXTであれ、私たちはただデータを持っているだけで、まだまだ活用しきれていないと感じています。ですから、次にAI、マシン・ラーニングを使って実現するべきフロンティアは、データを集め、データを解釈し、体験のクオリティを高めることだと私は思います。学習者からのフィードバックを受け取り、AIにより精度を高めることで、学習体験をよりパワフルに、より適切に、具体的に、正確にする。こういったことが将来的に可能になると感じているのです。
N: まさに、テクノロジーとの共存ですね。
これまでのお話で、Wiley社は学習プラットフォームを持つスタートアップ企業を買収したり、科学者たちとの研究を進めたりと、「教育」に焦点をあてた投資に力を入れていることがよくわかってきました。学習・教育市場に対する貢献のため、非常に一貫性を持った活動をされていますよね。
D: ええ、そうです。Wileyという会社は、210年以上にも亘って一族により経営されていて、教育市場に貢献したいという思いがずっと変わらずに受け継がれています。「世界を調査研究と教育によって前進させる」という大きなミッションは先に述べた通りです。そして、私たちにできる貢献は、投資をすること、賢く投資することだと思っています。ここ2年半でも、先ほど挙げたZyante社のzyBooksを含む、3つのプラットフォームを戦略的に買収しました。
そして、ここから提供できるものがもっとあると思っています。今の課題は、これらのプラットフォームを、“企業内学習の分野”、“アセスメントを基礎とした学習”、そして“英語圏を超えた市場”に、どう応用するかなのです。この応用のためには全力を注ぎたいと思っています。
N: 英語圏を超えた市場というと、まさに私たちHRDグループにとって重要な内容ですね。
このビジネスにおける私たちの目的は、グローバルに通用する優れたコンテンツと、それを日本のHR業界に導入することです。これをできるだけ早く私たちの言語で利用できるようにすることが、私たちの責任だと思っています。事実として、私たちは英語の壁のためにとても遅れをとっています。数十年前と比べると、最近の多くの子供たちは英語を学び、英語を使ったコミュニケーションをとることが10年前よりうまくなっています。しかし依然として、支配的なのは日本語です。私たちは世界に追いつかなくてはなりません。
ですが、こういった課題と同時に重要なポイントだと考えていることがあります。それは、グローバルに機能するアセスメントツールもしくはラーニング・テクノロジーであれば、それは日本でも機能するはずで、日本はそれほど特別ではないということです。ですから、私たちがより集中するべきなのは、「良いコンテンツとは何か」であると考えています。
D: ええ、同感です。現在Wiley社のビジネスの50%以上が米国の外で行われているのです。成長し、その成長を維持するためにも、Wileyはグローバルに通用する存在でありたい、あるべきだと思っています。
そして実は、研究においても教育においても、成長しているマーケットは第一にアジアなのです。私たちは、そこでより貢献する方法を見つけ出さなければならないと考えています。もちろん、良いコンテンツをもって。私たちにとっても、“英語圏を超えた市場”は、非常に重要なのです。
N: ええ、私たちも、Wiley社のグローバル戦略の一助となりたいと考えています。私は、自身がDiSCを試し、渡されたプロファイルに衝撃を受けたときから、この良いコンテンツをできるだけ早く日本市場に届けたいと思い、実行してきました。そしてDiSC導入後には、Wiley社よりも先駆けて適材適所を実現するタレントマネジメント・ソリューションとしてProfileXTのアセスメント事業を国内展開してきたHRD グループですが、この事業も現在はWiley社のポートフォリオに収まり、強固なバリューチェーンの中、新製品開発にも意見を伝えさせてもらっていますね。こうしてますますグローバルに通用するものが出来ていけば良いと思っています。
また、Wiley社は、わが社とのつながりだけにとどまらず、ほぼ毎年日本を訪れ、日本のパートナーとのつながりも大事にされていますよね。これまでのこうしたご尽力に心から感謝し、今後ますます強固な関わりとなることを期待しています。
D: そうですね、ありがとうございます。英語を日本語に翻訳することは、本当に大変な作業であると思います。文字や文化が違うというだけではなく、思考における言語による構造化の仕方も違いますから。アセスメントツールを翻訳し日本語版に開発するプロセスは、簡単なことではありません。ですから、素早くことを進めるには、西洋の言語と東洋の言語を組織化することはとても重要な課題です。ここでもマシン・ラーニングとAIが助けになるかもしれませんね。
まとめ
変化の時代をむしろチャンスと捉え、更ににテクノロジーとの共存によって、より良いプロダクトを実現させようと進化を続けるWiley社。そして、Wiley社のプロダクトをいち早く日本に届け、また日本から世界への架け橋ともなっているHRDグループ。
アセスメントツールは、変化する時代の中でも益々の発展を見せてくれる。そんな予感を私たちに与えてくれる対談でした。
世界の最先端といえる研究と教育が生かされているDiSCとProfileXTに、より一層の未来の可能性を期待します。
ー半世紀に亘るロングセラーの秘密に迫るー