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企業変革を加速させる組織と人材の力~事業成長に合わせて組織と人材像を再定義するための方法~『HRD Next 2021-2022 PROGRAM3 Day1_Session3』

企業変革を加速させる組織と人材の力 —事業成長に合わせて組織と人材像を再定義するための方法—

トランスコスモス株式会社 執行役員
田渕 和彦 氏
グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクター
西 恵一郎 氏

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消費者の価値観の変化、テクノロジーやデータ活用の進展、サスティナビリティに対する要望の高まりなど、事業戦略を描く上での前提条件が大きく変化しています。このような経営環境下において、経営リーダーは事業の方向性を見定め、その実行を支える組織や人材像を再定義していく必要があります。
このセッションでは、“事業構造の変化と人材需要のギャップにどう適応していくのか”という問いについて、事業トップマネジメントとビジネス現場に通じる組織・人事コンサルタントによる対談形式で議論を深化。組織ミッションを起点とした構造改革を進める中で、事業戦略の最上位概念に“人の価値の最大化”を据える事業トップの生の声をお届けします。
また、“企業変革を加速させるために、事業リーダーはどのように自らをアップデートさせるべきなのか?”というテーマにも触れるとともに、経営人材育成のプロフェッショナルが現在進行形で取り組んでいる“リーダー自らが進化していくプロセスや考え方”の実践的アプローチを共有します。

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ゲストスピーカー:
トランスコスモス株式会社 執行役員
デジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括
アカウントエグゼクティブ総括副責任者
兼 デジタルカスタマーコミュニケーション総括副責任者
田渕 和彦 氏

グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネジング・ディレクター
顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 董事
西 恵一郎 氏

モデレーター:
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
ディレクター パフォーマンスコンサルタント 
水谷 壽芳

“CS”から“CX”への変革

まず、田渕氏が自社における取り組みについて、次の3項目に則して説明を行いました。

①市場の変化と組織課題
②人の価値を最大化する人財育成・組織活性化
③これからの目指す姿

①市場の変化と組織課題

AIに置き換わる職業への危機感
田渕氏が所管するコンタクトセンターの市場は、2015年の7,400億円から2020年に1兆154億円まで拡大。同社の売上高も、2017年度の2,423億円から2021年度の3,364億円まで伸びており、11期連続での増収となっています。世界30か国・地域で6万人の従業員を擁するグローバル企業であり、国内においては北海道から沖縄まで全国に2.3万人の従業員が在籍しています。

このように事業が急拡大する中、2014年に発表されたマイケル・A・オズボーンの『雇用の未来―コンピュータ化によって仕事は失われるのか』において、AIに置き換わる職業として「コールセンターオペレーター」が上位に挙げられました。「これを見た瞬間、我々の事業はどうなるのかという危機感を覚えました」と田渕氏は打ち明けます。

“金太郎飴”からCX創出人材へ
これを機に、自社のサービスを再検討。それまでは、平準的で標準化され、安定的に運用される“汎用量産型”のサービスモデルによる“CS”(顧客満足)を追求していました。これからは、商品・サービスの購入前後におけるあらゆる接点で顧客にどんな体験を提供し、どんな心理的価値を感じてもらうかを重視する“顧客別カスタマイズ型・課題解決型”のサービスモデルによる“CX”(顧客体験価値)が求められると結論。したがって、人材も“金太郎飴”からCXを創出できることへのスキルチェンジを図る必要性が浮上したのです。

資料(出典:トランスコスモス株式会社)
(出典:トランスコスモス株式会社)

「そこで、CSからCXに変革するために我々は何をしなければならないのかを考え直さなければならないと考えました」と田渕氏。そして、なりたい姿の“Vision”、使命・存在意義の“Mission”、行動・考え方の“Value”から再定義。「経営層から現場まで共有・理解した上で事業運営に当たらなければ変化のスピードに追い付けないと考えました」と田渕氏は言います。「コミュニケーションの力で人の幸せと豊かな社会の懸け橋になる」というVisionの下、コミュニケーションの力で何ができるのかを個々の従業員が考えてチャレンジすることが重要であると打ち出したのです。

資料(出典:トランスコスモス株式会社)
(出典:トランスコスモス株式会社)

②人の価値を最大化する人財育成・組織活性化

外部のプログラムやサーベイの導入
「変化していく中で、人材が一番重要であると認識しています」と田渕氏。その人材の価値を最大化するために必要なことは何か。まずは上層部の意識変革が必要と考え、外部の知見を取り入れながら“他流試合”を行い、自らの考え方と世の中のギャップや自らのポジションを認識する機会を持つことにしました。そこで、2018年からGLOBISのミドル・マネジメント・プログラムの受講と、プロファイルズ社のCheckPoint360°サーベイを本部長以上に導入。2019年にはGLOBISのエグゼクティブ・マネジメント・プログラムの導入や、CP360°の部長以上への拡大、およびProfile XTを課長以上に実施。2021年にはCP360°を課長以上、PXTをマネージャーにも実施するなど順次拡大し、これまでにCP360°は128名、PXTは480名に実施しています。

資料(出典:トランスコスモス株式会社)
(出典:トランスコスモス株式会社)

経験と勘に頼った人事からデータの活用へ
360°サーベイでは顕在化している領域を、PXTは潜在化している領域をそれぞれ測定するもの。「国内2.3万人のメンバーの潜在能力をいかに早くキャッチするか、リーダー層の顕在化している能力をいかに評価するかという観点で導入を図りました。これによって、自己流のマネジメントを見直し、事業戦略に基づく人的資本の最適化を行っていくことが重要だと認識しています」と田渕氏は言います。田渕氏には、自分自身も属人的な人材の登用や配置を行ってきたという反省がありました。

「従来のように経験と勘に頼った人事ではビジネスのスピードに追い付けず、データの必要性を実感しています」と田渕氏。

360°サーベイとPXTを活用し、本部長や部長の状況を見る人財ポートフォリオの作成、パフォーマンスが高い組織とそうでない組織における上司部下のフォーメーションの違いの分析、配置転換や組織編制に繋げています。

「先々で状況が変化した際に、今からデータを持っておかないと何が適正なのかが計れないとの考えがありました」と田渕氏は説明します。

③これからの目指す姿

「SUPPモデル」
まずは、Mission・Vision・Valueに基づいて行動する人材の育成を最重要のテーマに挙げています。この浸透を図る共有(Share:耳で聞く)、理解(Understand:頭でわかる)、自分ごと(Personalize:体が動く)、実践(Practice:腹落ち)の「SUPPモデル」において、自分ごと化するプロセスを重視。このため、360°サーベイ結果を自己開示して対話し、率直なフィードバックを歓迎することにより、お互いを理解し認め合うことを通じて組織としてどう成長していくかを考える機会を設けています。

資料(出典:トランスコスモス株式会社)
(出典:トランスコスモス株式会社)

ここで田渕氏は自らの360°サーベイ結果を開示。「最初はサーベイのコメントを素直に受け入れられない部分もありましたが、対話を通じてどんな組織にしていくべきかを語り合いながら、ありたい姿に向けて取り組んでいくと、翌年、翌々年とスコアが向上しコメントもどんどん変わっていきました」と田渕氏は話します。

資料(出典:トランスコスモス株式会社)
(出典:トランスコスモス株式会社)

コンタクトセンター事業のありたい姿とは、「革新的・先進的なサービスと私たちの事業の原点でもあるコミュニケーションの力によって顧客体験価値を高め、地域と社会に貢献する」「多様性をもったすべての人とのつながりを大切にし、人の価値を最大化させ社員全員が自己実現を果たしワクワク働き成長する」というものです。

未来の付加価値人財モデル
同社では、今後のデジタル化、AI化、効率化の中で、顧客の課題にマッチしたソリューションの提供に繋げるために、どのような付加価値を付けるべくスキルチェンジを図るかという「未来の付加価値人財モデル」を定義。「運用のプロフェッショナル」「コンサルティング」「アナリティカル」「イノベーティブ」の4タイプを抽出しています。PXTを活用し、これら付加価値人財を発掘し育成していくことを検討しています。

資料(出典:トランスコスモス株式会社)
(出典:トランスコスモス株式会社)

「顧客に向き合う組織を目指す上で、資産として人財が最重要であり、属人的にならないようデータを活用しながら人財配置の最適化を図っていきます。こうした集団が顧客によりよいサービスを提供できるのではないかと考えています」と締め括りました。

変革の絵をどのように形に落とすか

ここから、田渕氏の発表内容について、西氏と対話に移りました。

西 変革の絵を描くことはできても、形に落とすことは非常に難しく、形になっていない会社が多いと思います。なぜ田渕さんの会社がそれができたのか、非常に興味が湧いているところです。ポイントとしては、田渕さんご自身が自ら変わろうとしていたことと、科学的なデータを見て変えていこうとしたところにあるのではないかと思いましたが、なぜそうされたのかについてお聞きしたいです。

田渕 自分でも怖かったのですが、組織が大きくなっていく中、自分のマネジメントの感覚が合っているのか、組織を動かしていくのに自分の経験値だけでいいのかと疑問を持ったのです。人事にしても、自分が知っている者だけを活用していたのでは何も変わらないだろうと。そこで、何か基になるものが必要だろうと、プロファイルズ社さんに相談した次第です。

西 変革対象が自分以外という人が多い中、変われていないのは自分も含めてのことと最初に認識されたことが大きいと思います。そう感じたのは、何かきっかけがあったのですか?

田渕 自分も変わらないといけないという意識がありました。最初の360°サーベイでは部下からいろいろなコメントをもらって立ち直るのに時間がかかりましたが(笑)。

西 どうやって組織を変えていくかについてですが、最初にMission、Vision、Valueを再定義し、立ち返る原点を設けたのはなぜですか?

田渕 事業が成長していく中でいろいろな課題が出てきたからです。業績目標などの数字が現場に降りることが多く、我々は顧客に何を提供することで対価を得ているのかという目的意識が曖昧になってきたところがあります。そこで、再度自分たちがやるべきことは何かを再定義し、これを理解しながら日々の活動、行動を変えていかなければならないと思ったことです。

西 決め方や浸透のプロセスはどのように?

田渕 このMVVは、お客様に対峙している各センターで、お客様と一緒になって作成しているんです。現場のメンバーがお客様とのやり取りの中でつかんだこうあるべきという姿を反映させています。

西 MVVを顧客とつくるというのは非常にユニークですね。その話で、CXに変えていくという話に繋がりました。社員の納得感も違うと思います。

田渕 我々はアウトソーサーですが、どこを見て仕事をするのかを間違えてしまう部分もあるので、お客様とつくらせてもらうということに取り組みました。

西 次に、データを可視化して人をシフトし組織のパフォーマンスに繋げるという部分について、もう少し詳しくお聞きしたいです。

田渕 全てはこれからですが、まずは現場でお客様のフロントに立つメンバーの中で顧客のCXを実現した者について、顧客の事業の理解度が深いのか、新たなサービスの創出力があるのかといったことが分析できると思っています。リアルな顧客接点を持つ中で、どのように現場でスキルアップをしていくか、それがどう組織全体のパフォーマンス向上に繋がっていくかを見ていきたいと思っています。提供するサービスが変わればフォーメーションも変わると思いますが、そこをしっかり見ていきたいということです。

西 人の組み合わせでパフォーマンスが変わるといったことの実証は進めていますか?

田渕 当社においては、上意下達を含めてコミュニケーションが一方的になっている面があります。そこを双方向のコミュニケーションにし、現場のメンバーがお客様から得た情報をフィードバックできるようになればどんどん新しいサービスも生まれてくると思います。対話の場を設けているのには、そういった狙いがあります。

ここで対話は終わり、水谷がトランスコスモス社では360°サーベイなどの振り返りの機会を内製し、社内のファシリテーターが事業側の意見を吸い上げるしくみをつくっている点が参考になるとの補足を行いました。

組織と人材像の再定義:組織変革の全体像と事例

次に、西氏が支援事例や直面している状況を通じて、事業成長に合わせて組織と人材像を再定義するための方法についてのプレゼンテーションを行いました。

企業を取り巻く環境変化
まず、世界の不確実性指数が1980年頃から現在まで4倍ほど高まっているとともに、その波の高低差が激しく多頻度で起きていることを紹介。「100年に一度の危機が毎年のように起きているような状況。こうした変化に対応し続けることが企業が生き残っていける一つのポイント」と説明しました。企業が対面する環境変化として、グローバル化、デジタル化、ESG対応、70歳定年による働く価値観の変化、およびコロナ禍によるNew Normalへの対応を挙げています。

こうした変化の特徴として「すぐに変わる」「変化の振り幅が大きい」ことを挙げ、「時間をかけて戦略を立案しても変化に間に合わないことも多く、戦略を急速に変化させるとともに、戦略変化に柔軟に対応できる組織能力を持つほうが真の競争優位性の源泉となると考えられます」と指摘しました。

組織変革の全体像
次に西氏は変革の全体像を提示。まずは「何のために事業を行っているのか」という北極星たる存在理由を確認するパーパスを定める必要があります。これに基づいて、コーポレートガバナンスおよび“人”と“金”を動かしていくタレントマネジメント、ポートフォリオマネジメントを策定します。「これは中枢部が決めて動かすよりも、事業部門に権限移譲し判断させるべきであり、事業部門長が事業部を経営していく形にしなければ変化のスピードに追い付けなくなると思います」と西氏。事業部門として、「両利きの経営」などでの事業構築や、ビジョンの構築やデータ、技術を活用しての価値創出活動、ジョブ型への対応といった組織構築を行います。「こうした組織づくりのためにタレントマネジメントが重要になってきています。一方で、“側”だけ設けてもだめで、個々のメンバーがしっかりコミットする組織にならないと強くなれないと思います」と西氏は指摘します。そのためには、何かの考え方を一方的に落とし込むのではなく、社員と会社はお互いに選び選ばれるフラットな関係として、対話を通じてエンゲージメントや一人ひとりのパーパスとのすり合わせを行い関係性を再構築していくことが求められます。

資料(出典:株式会社グロービス)
(出典:株式会社グロービス)

こうした時代に求められるリーダー像として、成果を出せるのは当然のことで、「方向性(ビジョン)とストーリーから共感をつくれる」「社会価値の実現に向け多くのステークホルダーを巻き込める」「オープンでフラットなスタイルで多様性を加速できる」「事業のスピードを高速で回せる」といった要素を挙げました。

資料(出典:株式会社グロービス)
(出典:株式会社グロービス)

製薬会社の支援事例:人材の可視化と多面評価が重要なファクターに
「こうした全体像の中で、企業によってどこを中心にやっていくかという問題」として、西氏はある製薬会社の支援事例を紹介しました。
支援施策で目指したこととして、「部門ごとに異なる人材選抜についての考え方を揃える」「事業部が人材を抱え込むことによる、全社タレントマネジメントの総論賛成・各論反対を乗り越える」の2点を紹介。

資料(出典:株式会社グロービス)
(出典:株式会社グロービス)

これを遂行する上での難所として、「配置に人事が関与できない」「有望な人材を部門内で抱え込む」「役員間で人を見る基準がバラバラ」「対象者が異動に前向きでない」ことを挙げました。「部長レベル以上を動かすことはある程度できても、変化スピードを上げる上では若年層のタレントマネジメントが重要」と西氏は指摘します。部門を超えた多様な経験を積ませて鍛えるための配置が不可欠だからです。しかし、そのためのポテンシャルのある人材を発掘することや、上司だけでなく多様な視点で評価しシステマチックに管理することが難点でした。「そこで、人材の可視化と多面評価が重要なファクターとなりました」と西氏は言います。

資料(出典:株式会社グロービス)
(出典:株式会社グロービス)

そこで取り組んだ内容としては、選抜人材のキャリア研修の受講による経験の棚卸や今後のキャリア意向の抽出、人事による人材の多面的な見える化、各本部長による将来的な経営ポジションの洗い出しや要件出しなどを行った上で、人材の正しい配置を議論するための人財開発委員会を年3回程度開催する運びとしました。

資料(出典:株式会社グロービス)
(出典:株式会社グロービス)

大切にした3つのポイント
こうしたファシリテーションを担ったうえで西氏が大切にしたポイントとして、次の3点を挙げました。
①人材データベースの構築支援:業績数字だけでなく経験の可視化や資質の洗い出しを重視
②対象者へのキャリアセッション:各自の方向性とキャリアを繋げる施策の理解
③人財開発会議企画サポート・ファシリテーション:“総論賛成・各論反対”から“総論賛成・各論賛成”に持っていくルールづくり、意見交換の土台づくり

資料(出典:株式会社グロービス)
(出典:株式会社グロービス)

配置案の決定方法としては、パフォーマンス、ポテンシャル、職務経験、キャリア意向の4要素から多面的に対象者を把握すべくキャリアシートに整理し、直接本人を知らなくても議論ができるように可視化。BIツールで見やすくする工夫も行いました。

同社のアセスメントにProfile XTを採用した理由として、配置に繋げるためのジョブマッチ機能、プロ講師による本人への丁寧なフィードバック、プロファイルズ社が企画の壁打ちから参加する共創パートナーとしての伴走というメリットを挙げ、プレゼンテーションを終えました。

資料(出典:株式会社グロービス)
(出典:株式会社グロービス)

“総論賛成・各論反対”から“総論賛成・各論賛成”へのプロセス

ここから、西氏の発表内容について田渕氏との対話に移りました。

田渕 西さんはいろいろな企業の組織人事コンサルティングをされていると思いますが、この1~2年のコロナ禍によるリーダー層の変化を感じることはありますか?

西 特に感じるようになったのは、対話の重要性です。それまでは職場で何気なく対話ができていたものが、意図的に行わなければならなくなったからです。放っておくと遠心力が働くので、対話の機会をどれだけつくり出して組織の求心力を高めるかが重要になったということです。そういうことが得意な人が事業を成長させることができていますし、できない組織はパフォーマンスが落ちているというのが顕著になっていると思います。

田渕 エンゲージメントを強化し関係性を再構築するという話がありましたが、コロナでリモートなどが増えると難しくなっていると思います。そこで、企業はどんな工夫をしていますか?

西 まず思うのは、難しくなっているのはコロナのせいではないということ。そういった課題がある企業はコロナの前から課題があり、コロナで顕在化しただけだということです。それを変えていこうとする時に、可視化が大事だと思います。組織の状態は感覚的にしか捉えられないからです。それをどう数値化し見える化するか、その上で組織の全メンバーが当事者としてどう良くしていくかを考えることが成功のポイントだと思います。上層部が考えて「こうしろ」と言うのではなかなかうまくいかないということです。

田渕 そういう場合も、上層部とメンバーとの間で課題の認識がかなり違って難しいのではないかと思います。

西 360°サーベイと同じで、上層部は聞きたくない情報があるんですね。「そんなことを思っていたのか」と受け入れられない人もいます。組織の状態は体重と同じで、100㎏の人が1週間後に50㎏にはならないんです。せいぜい95㎏ぐらい。こうした状態を何度も聞かされていく中で受け容れていくわけです。これを受け容れられないのはリーダーの責任なので、その場合はリーダーを変えるしかないと話しています。上層部が変わらないと組織は変わらないからです。よく「組織はリーダーの鏡」と言っていますが、挨拶をしない組織は、得てしてリーダーが挨拶をしていないものです。

田渕 製薬会社のケースで、若手の発掘や起用を促進させていくことを“総論賛成・各論賛成”にするまでのプロセスの中で、どういうところに一番時間がかかり、腹落ちさせるのが難しかったのでしょうか?

西 まず、“総論賛成・各論賛成”にするための条件出しをしてもらいました。すると、「決定後2か月後に人材を出せとは言わないでほしい。1年後とか、中長期的なスパンでなら出す」とか「出したはいいが活躍しない場合は戻してほしい。出しっぱなしではなく、状況を教えてほしい」といったことを洗い出してもらい、運用ベースに落とし込むことをしました。

田渕 個人のデータをBIツールで見える化する際に、データ化そのものに時間をかけないようにする取り組みもされていたかと思いますが、いかに運用に乗せて人が動き組織が活性化し答えが出るまでに時間がかかると思います。

西 その通りです。この会社の場合は、人財開発委員会にかける人材を選抜し、まず育成現場に送ってもらうのですが、以前はそもそもいい人材を送り出してもらえなかったという問題がありました。そこを議論して、どういう人材がいいのかを可視化し、そのいい人材を育成に送り出すべきという考え方に変わっていきました。ですので、今後はいい方向に変わっていくと期待しています。

田渕 自分自身も経験したことですが、自分の感覚が合っているかどうかをアセスメントで把握し周囲と合わせていかなければならないと思っています。そうでないと、一人よがりの人材の囲い込みみたいなことが起こると思います。

経営と人事をどう繋ぐか

以上で対話は終了し、水谷が両名に「経営と人事をどう繋ぐかというテーマにおいて、ビジネスのスピードが速くなっている中、一般的に企業の人事が採用、育成、配置の全ての機能を持っていると、事業側と合わなくなると思います。そこで、事業側に人事機能を落とし込む際、どのフェーズから落とし込めばよいかのヒントはありますか?」と投げかけました。

田渕氏は、「事業側が事業戦略をつくる段階から人事戦略も加えていかないと、今のスピードにはついていけないと思います。事業をどう運んでいくかに人事戦略を紐づけ、どんな人材を求めるのか、スキルチェンジをどう図るかを考えなければならないということです。なので、人事と事業部の力関係で動くのではなく、一緒に考えないと変化にはついていけないということだと思います」と回答しました。

西氏は、「一緒に考えていくのは大前提として、採用責任を事業部側が持つことが大事だと思います。事業戦略を練り人員計画を立てるのは事業部で、その採用責任を負うのも、退職させてしまう責任を負うのも事業部であるというふうにすれば、採用した人材の育成やタレントマネジメントへの責任感が一気に増すと思います。事業責任者がリソースの獲得責任を負うということが、第一歩として相応しいのではないでしょうか」と回答しました。

水谷は「新しい事業をつくっていこうという時に、その人材像も事業部がつくるとなると、その評価は人事ではできないと思います。事業責任者が評価するしかないと思いますが、そこが一つの切り口ではないかと思います」と述べました。

視聴者からのQ&A

ここで、視聴者からの質問を受けました。

「田渕さんは、360°サーベイで部下からのネガティブな評価にどのように対応されましたか?その後の部下の反応に変化はありましたか?」という質問に対し、田渕氏は「1年目は自分に余裕がなく受け容れるのは難しかったものの、振り返って指摘されたような伝え方をしていたと納得できました。ですので、感情的にならず最後まできちんと説明できるような努力をしているつもりです」と回答しました。

「MVVの体現と人事制度(昇降格など)を結び付けるには何が効果的ですか?特にチャレンジ意欲が少ない社員への対応を知りたいです」という質問に対し、西氏は「まず、チャレンジの方向性に理解はしているが納得していないという人は、納得感を高めるコミュニケーションが必要です。納得しているが活動に結び付いていない人の場合は、どう活動すればいいかのイメージが湧いていないのだと思います。そのやり方を示すことと、MBOなどで行動を握ることが必要です。それでも行動しない場合は、業務怠慢として対処するしかないでしょう」と回答しました。

次に「コミュニケーションとしての言葉はどのようにデータ化すればいいでしょうか?」との質問に、田渕氏は「音声認識でテキスト化はできても、そこに気持ちが入らないとなかなか伝わらないと思います。言葉は発した側ではなく、どう受け止められ、行動に変わったかに意味があるので、定性的なことも定量的なこともそこに表れると思っています」と回答しました。

最後に、田渕氏、西氏がそれぞれ本セッションの感想を述べ、終了しました。

ゲストスピーカーの紹介

トランスコスモス株式会社 執行役員
デジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括
アカウントエグゼクティブ総括副責任者
兼 デジタルカスタマーコミュニケーション総括副責任者
田渕 和彦 氏
Tabuchi Kazuhiko

1995年よりコールセンター事業に携わり、センター立ち上げや現場管理者、プロジェクトマネジメント、人事を歴任。
2005年 トランス・コスモス シー・アール・エム沖縄(株) 取締役、九州・沖縄エリアの責任者を経て、2010年 中国へ渡り EC事業運営に従事。 2012年からは日本に戻り、西日本エリアの責任者を担当。 2016年以降はアカウントマネジメント部門とデジタルコミュニケーションセンター部門を担当し、2019年4月に弊社 執行役員に就任。現場主義を貫き、企業のカスタマージャーニーに沿った顧客戦略全般を支援。

グロービス・コーポレート・エデュケーション
マネジング・ディレクター
顧彼思(上海)企業管理諮詢有限公司 董事
西 恵一郎 氏
Nishi Keiichiro

早稲田大学卒業。INSEAD International Executive Program修了。三菱商事株式会社に入社し、不動産証券化、コンビニエンスストアの物流網構築、商業施設開発のプロジェクトマネジメント業務に従事。B2C向けのサービス企業を立ち上げ共同責任者として会社を運営。グロービスの企業研修部門にて組織開発、人材育成を担当し、これまで大手外資企業のグローバルセールスメソッドの浸透、消費財企業のグローバル展開に向けた組織開発他、多くの組織変革に従事。グロービス初の海外法人を立上げ、現地法人の経営を行う。現在はコーポレート・エデュケーション部門マネジング・ディレクター兼中国法人の董事を務める。経済同友会の中国委員会副委員長(2018、2019、2020)。

2022年01月27日

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