【DiSC®事例】「5年で日本一」を目指し誕生した女子ラグビーチーム「PEARLS(パールズ)」ラグビー界の名将はDiSC®も取り入れる
Mie Women’s Rugby Football Club PEARLSゼネラルマネージャー
三重県ラグビー協会強化委員長
齋藤久 氏
DiSC®の活用はスポーツチームでも進んでいます。そのひとつが、三重県四日市市にある女子ラグビーチーム「PEARLS(パールズ)」です。
パールズは2016年に誕生したチーム。立ち上げからGM(ゼネラルマネージャー)を務める齋藤久氏は、高校ラグビー界の“名将”。長年にわたり三重県で高校教員を務め、ラグビー部監督として2つの強豪校を作り上げました。
そしてパールズの創設にあたり、高校教員とGMという「二足のわらじ」で新たな挑戦をスタート。2020年からは高校教員を辞め、GM一本で奮闘しています。
そのパールズでDiSC®を導入したのは、創設から5年経った2021年。どんな狙いがあったのでしょうか。齋藤氏とパールズの歩みや、同氏の考えるチーム論・指導論を交えながら、パールズでのDiSC®導入について紹介します。
DiSC®の活用はスポーツチームでも進んでいます。そのひとつが、三重県四日市市にある女子ラグビーチーム「PEARLS(パールズ)」です。
パールズは2016年に誕生したチーム。立ち上げからGM(ゼネラルマネージャー)を務める齋藤久氏は、高校ラグビー界の“名将”。長年にわたり三重県で高校教員を務め、ラグビー部監督として2つの強豪校を作り上げました。
そしてパールズの創設にあたり、高校教員とGMという「二足のわらじ」で新たな挑戦をスタート。2020年からは高校教員を辞め、GM一本で奮闘しています。
そのパールズでDiSC®を導入したのは、創設から5年経った2021年。どんな狙いがあったのでしょうか。齋藤氏とパールズの歩みや、同氏の考えるチーム論・指導論を交えながら、パールズでのDiSC®導入について紹介します。
最初から「プロチーム」を構想。5年で100社以上の企業から支援
齋藤氏がラグビー監督としてのキャリアをスタートさせたのは、1992年から2016年まで勤務した、三重県の朝明高校時代。当時25歳の彼は、ラグビー部のなかった同校でラグビー同好会を立ち上げ、部へと昇格。以降、大阪・花園で開催される全国大会にチームを6度導きました。
2016年に赴任した四日市工業高校では、翌2017年から3年連続で県大会準優勝の結果を残すなど、こちらでも確かな実績を作りました。
そんな彼に、女子ラグビーチーム「パールズ」創設の話が舞い込んだのは2016年。ちょうど四日市工に移ったタイミングでした。パールズは、5年後の2021年に予定されていた三重国体での優勝を目標に結成。三重県ラグビー協会の強化委員長も務めていた齋藤氏に白羽の矢が立ちました。
この話に、高校教員を続けながら新チームのGMに就任することを決断。前例のない兼業でのチャレンジをスタートしました。そして就任当時、パールズのチームづくりに明確なプランを持っていたといいます。
「5年後の三重国体で日本一を取るためにどんなチームづくりをすればいいか、ゴールから逆算してプランを立てました。そこで考えたのは、アマチュアなチーム経営では5年での日本一は難しいということ。最初からプロチームを作ろうと決意し、スポンサー探しを始めたのです」(齋藤氏、以下同)
企業スポンサーの協力を得て、一定の資金でチーム運営を行う。同時にチームのブランドを上げ、地域からの認知や支援を獲得する。こういったプロチームの経営をしなければ、質の高い選手と指導者は集まらない。そう考えて、教員の仕事のかたわら、協賛を募ることに奔走しました。
とはいえ、女子ラグビーは発展途上の分野。理解を得るのは簡単ではなかったでしょう。地道に企業を訪問する日々が始まりました
「最初は、朝明高校時代に後援会を務めていただいた企業の方などにお話しするところからスタートしましたね。『男子のラグビーも素晴らしいですが、これからは女子ラグビーという未開拓の領域に挑みたいと思います。どうか力になってください』と。学校の先生から営業マンになったわけではなく、高校ラグビーでお世話になった方々に、いままでの延長でお話しするような気持ちでした」
その結果、パールズは5年かけて100社を超える企業と、地元自治体の支援を集めるまでに。オフィシャルスポンサーには、地元の有力企業が名を連ねます。
もちろん、齋藤氏一人の力ではありません。パールズに関わるすべての人の活動が実を結び、支援の輪が拡大したのでしょう。
所属する日本人選手は、地元企業の雇用支援を受けて就職。給料をもらいながら活動しています。そして、外国人選手と監督やコーチはプロ契約を結んでいます。「いまはまだセミプロのチーム」と表現しますが、当初の構想に近いチーム体制が実現しています。
地元・四日市の駅や商店街には、パールズの広告や横断幕も。創設5年で地域の顔になりつつあります。チームの成績も右肩上がりで、毎年2〜3月に行われる全国女子ラグビー選手権では、初年度から3年連続で準優勝。2021年には、コロナ禍で変則的な大会形式ではありましたが、念願の優勝を果たしました。
目標だった三重国体は、コロナによって中止の憂き目に。しかしチームは活動を継続し、今後ますますの成長を目指しています。
「パールズだけでなく、他のチームが強くなることも大切です。それが女子ラグビー全体の盛り上げにつながりますから。そういった意味で、他チームを巻き込んだ取り組みも行っていきたいですね」
「自分の生き様がメッセージになれば」と、教員を辞めてGMに専念
創設から5年の間に、齋藤氏も大きな決断をしました。2020年4月に高校教員を定年前退職し、パールズの GMに専念したことです。
「パールズは年々チームとして拡大し、一方で四日市工の教員やラグビー部監督の仕事もありました。仕事量がかなり多くなり、『中途半端な二刀流になっていないか』と感じていたのです。実は2018年から2年ほど悩んでいました」
この頃は、高校の授業の空き時間にスーツに着替え、スポンサー企業を訪問。現状報告を済ますと、すぐに帰ってまた授業という日も多かったといいます。
加えて、監督を務める四日市工ラグビー部も成績を上げ、前任の朝明と県大会決勝を争うライバルに。これも辛い状況だったといいます。「朝明と四日市工が競うことは、まるで自分の子ども同士が争っているような感覚でしたから」といいます。
そんな中で、齋藤氏はパールズにすべてを賭けることを決意しました。
「中途半端な二刀流でやるのなら、パールズに人生を賭けようと。もちろん、女子ラグビーが今後どうなっていくか誰にもわかりません。それでも『齋藤はこのチームに人生を賭けている』という生き様が、わずかでもパールズのブランドを高めるメッセージになるならと、決意を固めました」
GM一本に絞ってから、もうすぐ2年を迎えます。100社の支援企業、そして地元の応援をつかんだのは、まさに彼の生き様が伝わった面もあるのかもしれません。
DiSC®導入は、メンバーが「必要な議論」さえ避けていると感じたから
そんな中で、パールズがDiSC®を導入したのは2021年9月のこと。背景には、こんなチームの課題があったといいます。
「チームは、選手同士が意見や不満をぶつけ合いながら、理解を深めるのが成長のプロセスです。高校ラグビーなら何も言わずともケンカしながら絆が出来るのですが、パールズの場合、選手は自立した大人であり、さらに外国人をはじめ多様なバックグラウンドを持つ選手が多い。そのためどこか遠慮がちで、必要な議論を避けていると感じるときがありました。もっと選手同士が自分をさらけ出して欲しいと」
この課題に対して、DiSC®の活用を考えました。DiSC®では、一人一人のモチベ―ションや思考スタイルが明らかになります。すると、選手同士が話し合うときも、目の前の相手がどんな性格や考え方の傾向があるのか、ひとつの情報をふまえた上で話ができます。
仮に強い口調で話す選手がいたとして、この人はそういうスタイルだからと前もって理解できれば「相手への不満も軽減されるはず」と齋藤氏。それは選手同士の議論に対する心理的ハードルを下げるのではと考えました。
「一人ひとりの違いは、あくまで“違い”であって“間違い”ではないのです。多様な考えや思考があることをDiSC®で明確に理解すると、選手は自分と違うスタイルの人を思いやり、受け容れられるようになるのではないでしょうか」
ビジネスの世界でも、多様性が重視され、同時にハラスメントが問題視される中で、自分の言葉がもたらすネガティブな影響を過剰に恐れて、発言に気を配り過ぎてしまう、あるいは本音で話せないと感じるシーンは増えているでしょう。本来なら必要な議論さえも避ける時代になりつつあります。
だからこそ「相手をおもんばかりつつ本音を伝えるために、DiSC®で多様性を理解するのが効果的なのでは」と考えます。
「教育現場でも、こういったツールを活用して学びの機会を作れれば有効だと思いました。他者を理解したり、思いやったりする心が磨かれるはずです」
齋藤氏のDiSC®スタイル。熱意とともに行動を起こし、周囲を巻き込んでいくiスタイル。パールズの創設から現在に至るまでのストーリーそのものでもある
齋藤氏自身もDiSC®を行い、自分のスタイルを分析しました。結果はiスタイル。楽観的かつ社交的な傾向があり、人々を励まし、楽しませることを好みます。
ただ、本人いわく「おそらく昔はDスタイルが強かったのでは」とのこと。Dスタイルは、直接的で決断が早く、ストレートに伝える傾向。一方で「強引」に見られてしまうこともあります。
「若い頃を振り返ると、強硬な態度で強引に指導していたこともありました。何というか、無理矢理にでも『はい』と言わせてしまうような。特に朝明高校の頃は、やんちゃな生徒が多かったですからね。自分の経験不足から、そういった指導になってしまっていました」
しかし、経験を重ねる中で、生徒に強引に“やらせる”のではなく、生徒が自分から“やりたい”と思うように、自発的な動機付けで行動変容を起こす指導を意識するようになったとのこと。
「生徒のためを思って毎日同じ指導をしても、効果が見えなかったのです。生徒は私の言葉を聞き『わかりました』という。でも変わりません。なぜなら“生徒のため”と思っているのは私だけで、生徒は言われてやらされているだけだったからです」
名将が語る「良いチーム」とは。そのヒントは普段の生活にある
そこで齋藤氏は、生徒と一緒に「どうなりたいか」「そのために何をしたいか」を考えることを意識。指導法も変わったといいます。当時30代後半。「この辺りでDスタイルからiスタイルへと変化し始めたのではないか」と話します。
「感動とは『感じて動く』と書きますよね。自分が求めている行動を相手に起こしてもらえるように、何かを感じさせることができるか。いつもそれを大切にしてきました」
DiSC®の結果から自身の指導法へと話が広がったところで、もうひとつ聞きたいことがあります。「良いチーム」とはどんなものでしょうか。
「良いチームだと感じるのは、人格の整った人間、心の強い人間が多いチームです。というのも、チームが負けるとき、100%の力を出し切って負けるより、自分から負けのスパイラルに入って自滅するケースが多いものです。我慢すべき時間帯に集中が切れる、相手に恐怖心を抱いて消極的になるなど。相手の強さに負けるより、自分の弱さに負けることが多いと感じます」
齋藤氏は「心・技・体」という言葉において、なぜ「心」が最初に来るのかを考えるといいます。「技』と『体』が少々劣っても踏ん張ることは可能ですが、『心』なしでは踏ん張れません」と表現します。
だからこそ、心を鍛えるトレーニングが大切とのこと。ハードトレーニングで鍛えるほか、日常生活でも出来ることがあるのこと。
「きちんと整理整頓ができているか、靴を脱いだら揃えられるか。小さなこともめんどくさがらず、自分に負けないようにする。その繰り返しで心は鍛えられます。人格の整った人間が多いチームは、自分に負けない人間が多いということ。だから強いと思うのです」
もうひとつ、心を鍛えるために大切なことがあります。それは「最後の一本、最後の一球まで、毎日想いを込めて練習する」こと。大学生のとき、大阪体育大学のラグビー部の恩師に教えられたことでした。部員140名を超える強豪校で、当時2年生の齋藤氏はレギュラーではありませんでしたが、この言葉を糧に3年生以降はレギュラーを獲得。関西優勝などの成績を残しました。
「教員時代も、そしてパールズでも、大切にしたいのは最後まで真摯に取り組む気持ちです。買ったばかりのノートは、最初こそ綺麗に字を書くもの。それを最後の一ページまで続けられるか。この積み重ねがきっと次の時代につながり、人や仕事の縁を生みますから」
最後の最後まで、想いを込める。齋藤氏自身もパールズのGMという立場で、最後の一ページまで丁寧に、その活動を続けていきます。
2022年01月25日