会社を変えていく「想い」
弥生株式会社 代表取締役 社長執行役員
前山貴弘 氏
登壇者のご紹介
ゲストスピーカー
弥生株式会社 代表取締役 社長執行役員
前山貴弘 氏
Maeyama Takahiro
1977年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)及びシンガポール国立大学の経営大学院修了。プライスウォーターハウスクーパース税務事務所(現 PwC税理士法人)にて国内およびクロスボーダーの税務コンサルティングに携わる。2007年弥生株式会社入社、2011年退社。その後、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社にて日系企業の海外子会社再建、国内事業再編等の支援業務に従事。2020年に再び弥生に入社し、取締役管理本部長に就任。2023年より代表取締役 社長執行役員。税理士・公認会計士資格を保持。
モデレーター
HRD株式会社 執行役員 シニアコンサルタント
久保田 智行
Kubota Tomoyuki
2007年にHRD株式会社に参画。組織・人材開発のコンサルタントとして、チーム形成やマネジメント力の強化、セールス力向上などのテーマで、経営・事業リーダー、人事部門を支援している。現在は、DiSCアセスメント事業の責任者として、最新の日本語版アセスメント開発とその普及を推進。アセスメントを活用した実践的な心理的安全性向上プログラムを開発するなど、現場の課題に応じたソリューション提供を得意としている。
セッション概要:https://www.hrd-inc.co.jp/hrd-next/2024/#modal-session3-day2
未来のために会社を変革する社長の「想い」について共有いただく貴重なセッションです。
弥生株式会社は、2023年10月に「弥生Next」の新ブランドを掲げ、社会の変化を先取りして挑戦し進化するカルチャーづくりに取り組んでいます。
登壇される前山社長は、社長就任前は同社管理本部長を務められていました。管理本部長の時の視点、そしてその時には見えなかった社長としての視点で「会社の変革」をとらえ、会社の現在地と未来についてお話しいただきます。
人的資本経営の実現には、経営と人事の連動が鍵となります。このセッションでは、その両者の視点から、課題を乗り越え、人的資本経営を実現するための示唆をご提供いたします。
安定企業という言葉を自己否定した先にあるもの
久保田:「会社を変えていく想い」ということで、弥生の代表取締役社長執行役員の前山貴弘さんをお招きしております。よろしくお願いします。
視聴者の中には人事関連の方がとても多いので、私がぜひ前山さんにお話いただきたいと思ったのは、2023年の4月から代表になられて、その前には管理本部長の立場でも変革に携わっていらっしゃるので、それぞれの視点での想いや、変革にあたって感じられた壁について、お話いただきたいと思います。
私が話していて思うのは、前山さんはとても情熱的な方だなということです。伺ったところだと、音楽もされてらっしゃるということで。
前山:そうですね、バイオリンを弾いています。学生のころからずっとオーケストラに入っていてまして、卒業してからも私の先輩が作ったアマチュアオーケストラに私も所属して、もう何十年もずっと弾いていますね。
久保田:ロジカルな話もありながら、情熱的なところも皆さんに感じていただけるのではないかと思います。では、前山さんにバトンを渡しまして、ぜひ弥生の変革の取り組みについて概要をお話しいただければと思います。
前山:ありがとうございます。タイトルとして、「会社を変えていく想い」を付けました。そもそも会社を変える必要性がどこにあるのか、なぜ変えなければいけないのか、なぜこれまで変わらなかったのか、そんな話をしながら、変えるためのやり方ではなく「想い」の部分を、私なりの視点でお話させていただきたいと思います。
少し私どもの会社のご紹介と、私自身の自己紹介、そして社長に就任してもう10ヶ月ほど経ちますので、実際にやってきたことについて、とくに人事の視点からご紹介させていただきます。
その後に、会社を変える想いというのは、問題意識からくるものだと思っていますので、その点についても紹介します。そして最後に、変革の活動ということで、人事の視点を中心に私どもの取り組みをご紹介したいと思います。今日は人事の方々も多く視聴されていると聞いていますので、そういった方々の気づきや、心を動かすことに繋がるとうれしく思います。
まず、会社紹介です。私ども弥生という会社で、カタカナやアルファベットが社名に一切入っておらず、漢字だけの会社も最近はなかなか珍しいのではないかと思いますが、業務ソフトウェアおよび関連サービスの提供を事業としております。
一番多くの方々に知っていただいていると思うのが、弊社の会計ソフトです。もちろん、それ以外のソリューションも提供していますけれども、ネームバリューでいいますと会計ソフトについては、皆さんもどこかで耳にされたことがあるかもしれません。
スライドには、あえて「業績も社員数も安定的に成長」と書いていますが、この「安定的」というのはどんな内容なのか。もしかしたら危機感の裏返しで、反対側の表現とも捉えられると思いますので、そんなところを意識してお聞きいただければと思います。
会計ソフトのほか、給与計算やその販売管理といった、いわゆるバックオフィスの業務の一部を私どものソフトを使って効率化を図っていただくようなソリューションを提供しています。クラウドベースのものと、デバイスにインストールして使うものと、さまざまな様式で出しています。登録ユーザー数でいいますと、310万以上ということで、中小企業の皆さまに多く使っていただいています。ユーザー数では国内で一番使っていただいているソフトで、「25年連続No.1」となっています。また、会計ソフトの使い方がよくわからない、何をやっていいかわからないということもあるので、会計事務所の方々にもお使いいただいていることもポイントです。会計事務所の方々にも支持をいただいているのが、我々の強みであり、お客さまにとっての安心感に繋がっています。
このように見ていただくと、なかなか頑張っている会社じゃないかと思っていただけるかもしれません。だからといって変革が必要ないとか、変わらなくてよいといった話ではないのです。
安定的な企業であっても変革に取り組まなければいけないということ自体、今回私が共有したい一番ポイントだとご理解ください。
では、我々が今取り組んでいることについてお話させていただきます。新しいブランドを発表しました。たまたまですが、本イベントの名前にも通じる「弥生Next」という名称になります。
我々自身、今のサービスラインナップだけではダメで、お客さまや社会のニーズそしてテクノロジーなど、いろんなものが変わっていく中で我々自身も変わっていかなければいけないと思っています。そして、我々自身も新しいブランドを通じて、お客さまへの提供価値を高め、かつお客さまがよりよいビジネスをしていけるように、我々がどう支えられるかといった想いを形にしたのが、「弥生Next」というブランドになります。
「つながる、はじまる。もっといい未来」をスローガンに、まさに我々自身が、単なる会計ソフトからお客さまにとってのビジネスパートナーになれるようなソリューションを目指し、第1弾を出しました。
こうしてソリューションを刷新したことを含め、我々が今置かれている状況についてお話します。テクノロジーがどんどん進化している中で、これまではできるわけがない、夢のまた夢だと言っていたことが、明日になったらできるようになったり、常識になったりするかもしれないのが現状です。
我々ベンダーだけではなく、ユーザー自身、そして社会そのものがイノベーションの価値を享受しつつある。そのような状況の中で、我々は今、ビジネスをしているということです。
ただし一方で、そんな状況だからこそ、今のサービスを一切やめて、いきなり新しいサービスを開発しました、新しいサービスを提供しますというと、現実問題は無理ですよね。我々みたいな会社では、これまで使っていただいているお客さまにいかに満足しつづけていただくかも重要であり、それとはまた別に、新たな価値創造も両立しなければいけません。
これはもちろん、私どもの会社だけの話ではございません。ビジネスとは基本的にそういうものだと思っています。とくに数十年前にインターネットが登場し、それだけで仕事のやり方や生活の様式が変わりましたが、最近ではクラウドやAIといった、新たな概念やテクノロジーが出てきています。
社会状況がどんどん変わっていっている中で、まさに我々だけが単に変わらなければいけないのではなく、どの企業、どの事業者にとっても、もしかしたら消費者にとっても、つねに変わっていくことを今まで以上に求められているのではないかと思います。
そうした中で、既存のビジネスと新規のビジネスの両立をしていくために、とくに人事の面でどのような形でどういった工夫をしてきたのか、ということをお話したいと思います。
ここで、私の自己紹介をさせていただきます。改めて、前山貴弘と申します。経営者として今携わっておりますが、実は元々出自としましては、公認会計士です。新卒で会計事務所に就職をしまして、税金の計算だったりコンサルティングであったり、会計基準などを目の前にしながら、国内外のお客様と対峙をしていく仕事をしていました。
当時から、会計士というのはいわゆる専門家の位置づけですので、この分野は会計士というように仕事の範ちゅうが決まっている世界で、新卒の時代を過ごしていました。当時の私は、会計士の試験勉強で勉強したことと、目の前の実務でやっていることが、もう少し広げられないか、違う視点で知識やスキル生かすことができないか、とずっと思っていました。
そんな中で私自身、転職も経験しましたし、せっかく会計士の免許を持っているので、個人で仕事を受けたりもしました。弥生に入社したのが2007年でしたが、その後、外に10年くらいいまして、それでまた出戻りで帰ってくる形で……何を申し上げたいかというと、本当にいろんなことをやってきたということです。
ベースには、会計士という経験や知識がありますが、その専門性を追求してきたというよりは、専門的な知見をベースに、本当にいろんな経験をしてきたというのが、私自身の自己紹介になります。
久保田:今日のお話の中で、この前山さんの経験や経歴がすごくポイントになると思います。
ご自身が会計士でもあって、ユーザーやお客さまの会計士の気持ちも、もちろんよく理解されています。そういう視点をお持ちであることと、それから弥生に入社されて、管理本部長そして社長を歴任され、それぞれの立場で会社のことを見ていますが、おそらくまったく違う景色だと思うんです。だからこそ生まれてくる想いといいますか、何かポイントはありますか?
前山:そうですね。日本の会社はどちらかというと、ジェネラリストを育てる形で、とくに大企業を中心にそういう教育をしてきたと理解しています。一方外資では、どちらかというとスペシャリストといいますか、専門家のような立場の社員が多かったりします。
ただ、やはり経営者ということですと、外資も日本も関係なく感覚や知識、経験を求められるものだと思います。人材開発や人材育成では、そういったものをいかに日々の仕事の中で意識させるか、できる土壌を作るかが1つのポイントではないかと思います。
私自身は、自分で今やっていることを起点にして、「別の領域も楽しそうだな」「今やっていることと掛け合わせるとどんな関係性になるんだろう」と考え、自らキャリアを広げてきました。もしかすると、人事施策や人事考課にもそうした視点が入ってくると、1人1人の可能性が広がったり、会社の体力や活動領域を拡大したりすることにも、繋がりうるかもしれないという気がします。
久保田:「危機感、変革のとき」というテーマも、おそらくいろんな経験があるからこそかと思います。危機感を伝える、感じてもらうことも大事ですし、1人1人から湧き出てくることも大事です。
前山:仰る通りでして、危機感に限らずですけれども。私自身はものごとをアートとサイエンスだと捉えているんですね。サイエンスとは何かというと、いわゆる科学のことですよね。我々の仕事のほとんどの部分が、何かを調査したり、ロジックを考えたり、人にわかるように説明したり、情報が決まっていて、そこに忠実にものごとを進め、積み上げていく活動です。
ただ、ともすれば何か調査をしたとか、新しい発見があったとか、市場の状況が理解できましたということが、仕事の中心になってしまいます。そういう仕事は世の中にたくさんあると思っていて、先ほどのイノベーションの話にもありましたが、おそらくそれだけでは人は動かないと思います。
サイエンスの中に、いち担当者として、「私、これ大好きなんだよね。だから、やっているんだよ」ですとか、どちらを選ぶべきかと言われたときに、こっちの方が利益が出るからという科学的な理由ではなく、「こっちの方が好き、気になるんだ」といった想いがあって、そうしたアートと先ほどのサイエンスの両者の結節点が、人の感情を動かすものになるといいますか。
それは、ビジネス拡大にも繋がることがあると思うので、久保田さんの言うように、いろんな視点と感覚でものごとを見ることが重要で、一方だけではダメということではないかと思います。
サイエンス偏重が進む中で、アート要素として人材アセスメントを取り入れる
ここからは、着任してからの施策をご紹介したいと思います。
私は先ほど出戻りとお話させていただきましたけれども、2011年に弥生を退職したんですが、2020年に戻ってまいりました。FY(会計年度)の2020年に戻ってきたんですが、そこから2021年、2022年、2023年度の途中まで人事も含む管理本部長として、2023年の途中から2024年については社長の立場で、さまざまな人事施策を導入してまいりました。
戻ってきたときは、まさにコロナ禍の真っ只中。ちょうど始まって、山が一番高かったころですが、そのころに人事として何が必要なのか、どうすべきなのかという話の中で、一番最初の施策が始まりました。どの企業でもそうですが、リモートワークの実施は、全世界的に起きたことです。ただ、リモートワーク手当を入れたことは、他企業と比べると少しユニークだったのではないかと思います。
その後、コロナ禍が続いたこともあり、人事制度をいろいろ考えていく上で、例えばフレックスタイムを導入している企業もあったと思いますが、我々も遅まきながら、家事との両立などを意識しながら、時間単位の有給を取り入れたり、フレックスタイム制度も入れたり、副業もぜひやってみようよと始めたり、かなり試行錯誤したものもありますが、そのようにコロナ禍を機に施策をどんどん入れていきました。
コロナ禍が明けて、多くの企業がオフィスワークに回帰している中、我々はハイブリッドワークということで、今もリモートワークを続けています。私自身の考え方として、リモートワークはもはや人類の方針であるように思います。せっかく実施できたリモートワーク。インフラも整っている中で、この進化をぜひ我々のビジネスの中に生かせないかということで、リモートワークを続けています。
実際に、これらの人事施策に対する社員の満足度は上がってきておりますし、一番よい誤算でいいますと、今、場所を問わずに全国から採用ができています。エンジニアの採用がなかなか難しい中、エンジニア以外の職種も採用市場が盛り上がっているので、完全リモート希望のワーカーもどんどん増えてきているので、リモートワークを導入して、継続しているところが採用上の利点の1つになっています。
そんな中、DiSC®も導入してまいりました。リモートワークによって画面上の関係になってしまうと、先ほどの話でいうところのサイエンスの話、ものごとのよい・悪いの判断だけで仕事が終わってしまいます。なぜそういうことを思っているのか、どういうことを感じているのか、どういったところに重きを置く人なのか、といった側面が分かりづらい環境になりつつあったので、DiSC®を導入しました。
結果としては、すごくコミュニケーションが活発になりましたし、コミュニケーションの質が上がったと思います。具体的には、「あの人は、DiSC®でいうと何スタイルだから、こうだよね」ですとか、「この部署には何スタイルの人が多く集まっているから、こうだよね」といった話が聞かれるようになりました。リモートワークで感覚を感じられないような環境の中で、血の通ったコミュニケーションをする共通言語の1つとして導入できたというのは、とてもよいことだったと捉えております。
ここで、また違った話をさせていただきますけれども、そもそも人事を含む、管理部門やコーポレート部門とは何かについて、私なりに解釈したものを提示させていただきます。
我々は弥生という会社ですが、それが1つの箱だとしまして、その箱を通じた活動にインプットとアウトプットがあると捉えますと、基本的にアウトプットが多いですね。
とくに上層部では、売り上げや利益といった話が毎日のように飛び交っていますけれども、基本的にはアウトプットの中に、我々自身もしくはお客さまや社会の発展にどう貢献できるのかといったことや、人々の幸福感を上げるための活動などがあるわけです。素のアウトプットを会社の活動として定義したならば、それに対するインプットは何なのか、ということです。
インプットは、管理部門がつかさどっているところでして、良質なアウトプットを得るためには良質のインプットが必要だろうということで、そうした役割の認知は、私自身が管理本部長として管理本部の社員に植え付けたことが、大きな第一歩だったと思います。我々はアウトプットに直接繋がるインプットをしているんだ、という意識づけをしました。
管理部門のあるべき姿は、大きく2つ、パフォーマンスの最大化と、会社としてのプラットフォームです。
目の前の仕事をこなすようなことは、管理系の仕事にありがちだと思いますけれども、そのあたりのマインドセット、マインドチェンジをしながら、役割自体を変えていく、自分自身の仕事の捉え方を変えていく。そういったことを管理部門の人間に対して、つねにメッセージとして出してきました。
結局のところ、私が何をやってきたかというと、マインドチェンジですね。我々自身が変わらないと、会社のアウトプットも変わらないという話を、総体でしてきたということでございます。
安定企業だからこそ足りない危機感、掲げた「挑戦・スピード・生産性爆上げ」
ここからは、「問題の認識」ということで、どの企業にもどの事業にも、そしてもしかすると個人にも、解決したい課題がさまざまにあると思いますけれども、我々自身も解決したい課題がたくさんあったという話をします。
先ほど、企業紹介の中でお話させていただきましたが、本当にたくさんのユーザーに現在使っていただいているのが、我々のソリューションです。会計事務所の中でも、4割近い会計事務所が私どものソリューションを使っていただいています。
もしかしたら、よい会社だねと言っていただけるような状況かと思いますし、私自身も手前味噌ではありますが、本当によい会社だと思っておりますが、先ほどの世の中のスピード感を考えると、現在のユーザー数や積み上げてきた事業の歴史といったものが、ともすればマイナスに作用することもあるかもしれないと思っています。
どういうことかといいますと、現在のユーザーにいかに満足していただくかに注力するがあまり、将来のユーザー、もしくは現在のユーザーさんが向かうべき将来の姿を提示できないようなことに陥ってしまうリスクがあります。
現実問題として、現在のユーザーには本当に製品自体を評価していただいていますし、結果として売り上げも利益も結果が出ている状況です。
ですので、企業として何が危機感になるのか、何で変わらなければいけないのか、個々の社員はまったく理解できない状況です。かつ、例えば転職してきた社員がPLの状況を見て、前の会社に比べてたくさん利益が出ていて儲かっている会社というのもよく聞きます。
本当に、なぜ変わらなければいけないのか、このままうまくやっていこうよという意見が、会社の雰囲気を作り、会社の文化の後押しをしていた状況でした。
ただ、先ほどから申し上げているように、世の中はスピード感を持ってどんどん変わっています。消費者の生活もテクノロジーによって変わっています。先日、コンビニでご高齢の方がキャッシュレス決裁を当たり前のように使っていました。
とくに私どものお客さまは、いわゆるスモールビジネスと呼ばれる個人事業者の方や小規模事業者が中心です。そんな中で、我々が今まで通りでいいんですよ、今まで通り一緒にやっていきましょうよ、と言っていると、将来もしかしたら目の前のお客さまを路頭に迷わせてしまうかもしれません。
そういったことまで、ビジネスパーソンなら本来は考えるべきだと思いますが、今のお客さまと将来のお客さまをいかに両立させるか、両方とも同じくらい大事なお客さまとして注力できるか、社員がどれほど認識して、どこまで問題意識を持っていたのかについては、私自身の問題認識があったということになります。
ですので、これまでの私どもの組織は、権限を経営陣に集中させていたり、それなりの歴史があるので大量の資料もありました。決算に向けた資料作りみたいなことも多くて、資料作成が結構大変でした。社内ミーティングの数も多いし所要時間も長いですし、参加者も多かったんですね。こういったことがおそらく原因で、事業の成長のスピードが鈍ってきたと思いますし、それがお客さまに対する姿勢や、開発体制において、守りの姿勢が蔓延していたのではないかと思います。
まずはやや誇張したお話をさせていただきましたけれども、どの企業にとっても、こういったことは起きうることではないかと思います。
続いて、ビフォーアフターですね。これもちょっと誇張した表現ですので、少し大げさな表現になりますが、これまで我々はどこを見て仕事していたかというと、内向きだったのではないかと思います。
たくさんのお客さまを抱えていて、現在のサービスを維持するために、あれこれやらなければいけない自分たちのTODOリストがあって、それをいかにこなすかという点にすごく集中していたのではないかと思います。そのために、よくも悪くも「社長どう思いますか」「社長決めてください」といった構造でした。
効率という意味ではよいかもしれませんが、組織のあり方として本当にそれがよいのかという議論はあると思います。
これを外に目を向け、お客さまのニーズがどう変化していて、自分たちは本質的なニーズの解決をしているのかといったところに目を向けよう、と。当たり前のことですが、面と向かって取り組みづらい分野でもあって、社員の意識付けも含めて取り組みました。
誰か1人の意見を仰いで最終決定にするのではなく、社員1人1人が判断して行動していこうよ、と。まずはやってみて、爆速で動いていこう、と。今起きていることは、明日変わっているかもしれないわけですよね。1年後にまったく違う状況が起きているかもしれません。
そういった中で誰か1人の意見だけを聞いて判断するのもおかしな話だと思いますし、計画を緻密に立てても計画の前提自体が明日は違うかもしれません。ですので、アフターの姿として、会社自体もどんどんシフトしていこうということを入れました。
こんなような感じで進める中で、文化を変えなければいけないという話がありました。ポイントは3つですね。挑戦・スピード・生産性爆上げ。
まず、「挑戦は、失敗して学ぶためにする」と銘打ちました。新しいことやろう、新しい世界を作ろうといったマインドセットも必要ですが、失敗していかに学ぶかの繰り返しをいかに多くできるかが、今の世の中では第1に求められているのではないかと思います。
2つ目はスピード。今日も、スピード、スピード、スピードと話をしていますけれども、スピードそのものに価値がある時代だと思っています。これも改めて言葉にして、みんなで共有しました。
最後に、生産性爆上げについて。生産性を上げましょうと、誰もが言いますが、生産性を爆上げするというと根本を変えなければいけません。これまでの延長線で、例えば今まで10分かかっていた仕事を9分でできるようにするといったレベルではないということ。自分たちの仕事のやり方を再定義していこうという話であります。
さらに、エンパワーメントの推進ということで、1人1人の力が結集して組織の力になっていくべきだという考えがありますので、社員がもっとも効果的に働ける環境づくりに取り組みました。
自由度を与えるので、やりたいことをどんどんやってください、と。その代わりなぜそれをやったのか、その結果どうだったのか、どういう反省が次に生かされるのか、といった説明責任を求めるような体制に変えていきました。
社員の中には、変革に対して後ろ向きな人もいれば、前向きに取り組む人もいます。若干、社内は混乱しているような状態かもしれませんが、私自身は現状も変わっていくための重要なプロセスの1つだと思っています。
我々としては、せっかく経営陣も変わったこともあるので、新しい考え方と文化を自分たちで作っていこうじゃないか、と。既存の製品に満足いただいていることは重要ですけれども、そこを起点にしてネクストステージの満足を高めていきたいと、取り組んでいるところです。
具体的なアクションを呼び起こすためのエンパワーメントの重要性
久保田:ありがとうございます。どうでしょう、皆さん。弥生がやってきたことと環境、それから会社の危機感、どうしていきたいのかという現在地も含めて確認いただけたと思います。
残り時間で振り返りをしていきたいと思いますが、前山さんご自身が変革のプロセスの中で思うこと、それから体験されていることを最後に、もう1枚スライドをご用意いただいるので、深めていければと思います。
前山:1つには、コミュニケーションの大事さを痛感しました。これも私が今さらお話するようなことでもないかもしれませんが、取り組みの中では本当に実感しました。
改めて、ものごとを変えていこうとして変わっていく中では、コミュニケーションをどうやって科学的に解決していくか、もしくは人々の感情面をアーティスティックに解決していくかについては、本当に取り組まれているところは少ないのかなというふうに思っております。我々も今やっていることが完璧だとは思っておりませんが、改めてコミュニケーションは本当に大事だと痛感している毎日です。
久保田:1人残さず、対面で、と言及されていますますが、ここがポイントでしょうか?
前山:はい。先ほど申し上げたようにリモートワークを併用していますので、ことさら対面のコミュニケーションっていうのが、お互い新鮮だったり、これまで以上の意味を持ったりするような状況にもなりますので、対面コミュニケーションを逆に利用していく場面も、実際にあると思います。
久保田:では、振り返りのもう1つ、取締役管理本部長としての振り返りについても最後にお伺いしたいなと思います。
前山:これは私が2020年戻ってきて、当時は社長ではありませんでしたが、当時も役員として戻ってきました。管理本部長という肩書がついているとですね、大きな権限を持って自分の意思でいろんなことができるポジションなのではないかと思われる方もいます。
現に、それはそれで「イエス」という部分もありますが、一方で、管理本部長もしくは取締役だけが1人で吠えて、1人で悶々と問題意識を抱えて動いても、もしくは仮に人事部が結集してこうだと言っても、おそらく会社はそれだけでは変わらないと思っています。
最初に申し上げたように、社員1人1人の問題意識があって、その問題意識と強い危機感に裏付けされたマインドセットを会社の空気として、会社の雰囲気として作るということが、当時を自分自身で振り返ってみて、できていなかったのではないかと思います。
結果として、管理本部の中ではこうしようとか、私自身はここに対してすごい危機感を持っているというのがありますが、隣の人にはそれがあまり伝わってないんですね。想いが社内で共有されてないところが、今思うと反省材料になります。
久保田:なぜ、それができなかったのでしょうか?
前山:私自身もバタバタしていて忙しかったこともありつつ、先ほど申し上げたように目の前のビジネスがうまくいっているという意識が大きいですよね。マーケットが変わっているといっても、私たちの損益計算書はピカピカじゃないか、と。すると、危機が迫っているからどうしよう、この先も大丈夫なのかとは、みんなあまり思わないんですね。私自身が言っても空気はなかなか変わりません。いかに仲間を増やしていくかという部分にも、意識がいかなかったこともあります。
久保田:社長になって、その視点が変わったのでしょうか?
前山:そうですね。権限だけではない、と気づきました。私自身もそういった危機感の中で社長になりましたので、改めてやってこようと思っていたことに取り組めているのかな、と思います。
その中でいうと、エンパワーメントの重要性というのは、1人1人のみんながそれぞれに危機感を認識、意識すべきで、危機感をアクションに繋げられるような環境を会社が作るべきということで、今取り組んでいるものです。私自身が何を言っても変わらないというのは、先ほど申し上げたとおりです。
久保田:ありがとうございます。視聴者には人事領域の方も多くいらっしゃるので、皆さんに向けて最後にエールや、伝えたいことがあればお願いします。
前山:月並みかもしれませんけれど、結局、とどまるのも人だし変えるのも人だと思っています。変えるのは、強烈な危機感、問題意識であり、その結果としてのマインドセットがものごとを動かしていくと思っております。その中心にいるのは、人事の皆さんだと思っていますし、私自身も社長という立場になってみて、人事のメンバーは本当に重要なパートナーのうちの1人だと思っています。
人事の人たちが問題意識高く一緒に動くことで、企業自体がどんどんいい方向に変わっていくと信じていますので、ぜひ人事の1人1人の皆さまも、その力を無限大に発揮していただきたいと思います。
セッション動画全編はこちら
動画申し込みURL:https://survey.hrdgroup.jp/zs/RoCl15
2024年01月26日