奇跡を信じる人材育成
coconogaccoにおける世界レベルのクリエーター育成理念とは
株式会社コ 代表取締役 / ここのがっこう代表
山縣 良和 氏
登壇者のご紹介
ゲストスピーカー
株式会社コ 代表取締役 / ここのがっこう代表
山縣 良和 氏
Yoshikazu Yamagata
1980年鳥取生まれ。2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学ファッションデザイン学科を卒業。在学中にジョン・ガリアーノのデザインアシスタントを務める。2007年4月自身のブランド「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」を設立。2009年春夏より東京コレクションに参加し,2009年にアーネム・モード・ビエンナーレ(オランダ)のオープニングファッションショーを務める。2012年,日本ファッション・エディターズ・クラブ賞新人賞を受賞。2015年日本人として初めてLVMH Prizeノミネート。 デザイナーとしての活動のかたわら,ファッション表現の実験と学びの場として「ここのがっこう」を主宰。2016年,セントラルセントマーチンズ美術大学ファッションデザイン学科との日本初の授業の講師を務め,2018年より東京藝術大学にて講師を務める。2019年,The Business of Fashionが主催するBOF 500に選出。」2021年「coconogacco」が毎日ファッション大賞鯨岡亜美子賞を受賞。
モデレーター
HRD株式会社 代表取締役
韮原 祐介
Yusuke Nirahara
1983年、千葉県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、アクセンチュアに新卒で入社。戦略策定、組織・人事改革、システム改革などに従事する。2012年~14年にかけてシンガポールに駐在し、ASEAN地域における日本企業の海外進出支援、組織・人事改革などを手掛けた。
2015年ブレインパッドの経営企画部長に就任し、中期経営計画の立案と実行を主導するかたわら、同社過去最大の大型案件を責任者として実行。同社の経常利益12倍、時価総額20倍超の達成に貢献。専門領域は、組織・人事改革、機械学習などのデータサイエンスやデジタルテクノロジーの活用による経営改善、サイバー防衛戦略。東京大学非常勤講師、東進デジタルユニバーシティ講師などを歴任。日本外交政策学会評議員。2022年より現職。著書に『サイバー攻撃への抗体獲得法』『いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本』がある。
セッション概要:https://www.hrd-inc.co.jp/hrd-next/2024/#modal-session1-day2
驚異的な才能と独自の視点でファッション界に革新をもたらす山縣良和氏が贈る、未来の才能を開花させる秘訣がここに。2005年に世界最高峰のファッションスクールである英・セントラル・セント・マーチンズ美術大学を首席で卒業、在学中にジョン・ガリアーノのデザインアシスタントとしても経験を積んだ山縣氏は、日本ファッション・エディターズ・クラブ賞新人賞を含む数々の賞を受賞。日本人として初めてLVMH Prizeにノミネートされたご経験をお持ちです。
本セッションでは、山縣氏がファッションの世界で培った知識と経験を基に主宰する「coconogacco」で実践する、世界レベルのファッションデザイナーを育成するためのユニークで革新的な手法に焦点を当てます。奇跡を信じ、才能を開花させるプロセスを垣間見ることで、参加者の皆様はクリエイティビティとポテンシャルを最大限に引き出す方法を学ぶことができます。山縣氏が実践する独自の人材育成法は、企業の人材育成に関わる全ての方にとって見逃せない講演です。
『ぼくは0てん』から、異能を開花するまで
韮原:このセッションでは、「奇跡を信じる人材育成、coconogacco(ここのがっこう)における世界レベルのクリエイター、クリエイター育成理念とは」ということで、株式会社コ 代表取締役 / ここのがっこう代表の山縣良和さんをお招きしております。
山縣さんは、coconogaccoで世界レベルのクリエイターをあっという間に育て、在学生や卒業生が世界的な賞をたくさん取られています。
山縣さんに今日お越しいただいたのは、同じ日本にそういう教育者がいらっしゃることを、視聴者の方々にお伝えしたいということと、山縣さんの活動や考え方から何かヒントを伺えたらと思い、お呼びしました。よろしくお願いします。
山縣:ありがとうございます。よろしくお願いします。
韮原:山縣さんと出会ったのは7年ほど前ですが、きっかけは2017年に東京都庭園美術館で開催された「装飾は流転する―『今』と向き合う7つの方法」という山縣さんの展示を見たことと、その前夜にリトゥンアフターワーズ(山縣氏が手掛けるファッションブランド)のステージを見て、私がガツンと衝撃を受けたことですね。「とんでもないものを見てしまった」と。
どうやったらお近づきになれるかと思ったのですが、共通の友人がいたことから今日に至っています。山縣さんの活動をまだ知らない視聴者がほとんどですので、最初に自己紹介がてら、今までやってきたことをご紹介いただけたらと思います。
山縣:では、簡単にですが、僕の今までやってきたことをご覧いただけたらと思います。今、手掛けているのが、自身のファッションレーベルであるリトゥンアフターワーズの活動と、あともう1つ、ファッション教育としてcoconogaccoの運営という、この2軸で活動しています。
まず、リトゥンアフターワーズの活動からご紹介します。と、その前に、ちょっと僕の幼少期の話をします。『ぼくは0てん』という絵本を出したことがあるくらい、僕は勉強がとっても不得意でした。勉強については劣等感の塊で、小学校、中学校、高校と、日本の普通教育の中で過ごしていました。
高校卒業後に日本の専門学校に入るんですが、そこでもあまりうまくいかず、中退という形で、ちょっと挫折をしてしまいました。(絵本のイラストを投影しながら)これは、「0てんくん」というキャラクターなんですが、結構悩んでいる絵なんですね。
韮原:(キャラクターの表情は)ご本人の投影ですか?
山縣:やや、投影ですね。実際にはこんなに0点ばかりではありませんでした(笑)。ただ、こういう物語ができるくらい、僕は勉強があまり得意ではありませんでした。
リトゥンアフターワーズについて。ブランドのコンセプトは、「装うことの愛おしさを伝えること」です。いろいろな方がいろいろな装いをしていて、世界各国の各地でも全然違う服装をしていると思います。その1つ1つが愛おしいと思うとともに、そうした装いそのものの素敵さが伝わっていけばよいなと活動しています。
(スライドを投影しながら)これは、活動が10年経ったころ、谷川俊太郎さんにこれまでの僕の活動を見て、書いていただいた『十二の問いかけ』という詩です。僕の想いがここに入っていて、とても気に入っている詩です。
韮原:言われてみればそうだよな、と思わされることがたくさん書いてあって、こういうことを立ち止まって考えること自体…そうだな、と思ってじんわりきたので、視聴者の皆さんにも今、少し味わってもらえたらうれしいですね。
山縣:「どうして、どうしてと問うのだろう 世界は答えであふれているのに」という最後の問いもいいですよね。
ここからはスライドがたくさんあるので、ざっくりとお見せしていきます。先ほどお伝えしたように、さまざまな装いの可能性へチャレンジするために、例えば廃材から衣服を作ったときの写真と、こちらは「神々のファッションショー」を開催したときの様子です。「神々のファッションショー」は、もし神様がファッションを着こなしたら、どんな格好をしているだろうというコンセプトで開催したものです。
こちらは、震災後に行った「神々のファッションショー」で、日本にファッションの神様がいたらどんな装いをしているだろうと想像を膨らませながら、作った作品です。
こちらは、京都国立近代美術館の「Future Beauty」という日本のファッションを紹介する展覧会のキービジュアルになった写真です。このときは、日本に代々伝わる織姫伝説からインスピレーションを得て、モデルは女優の安藤サクラさんですが、物語を作ったりしました。
こちらが、韮原さんに来ていただいた「装飾は流転する」の展示会の様子です。美術館の1室1室をお借りして、今まで僕が制作した作品を展示して、その前日にファッションショーを行いました。
これがコロナ禍に入ってからですかね。「ファッション イン ジャパン」という、戦後の日本のファッションを紹介する展覧会でも、作品を紹介していただきました。それに合わせ、国立新美術館でインスタレーション(展示する空間を含めて作品を体験させる展示手法)のショーを開催したこともあります。こちらは、上野公園で開催したファッションショーのフィナーレの様子です。
これが一番最新の取り組みです。山梨県立美術館からお話しいただいたものです。実は、「種をまく人」の絵で有名なミレーの作品について、世界でもっとも重要なコレクションを持っているのが、この山梨県立美術館なんですね
韮原:そうなんですか、ルーブル美術館のような所ではないんですね。
山縣:はい、実は山形県立美術館なんです。45年前からミレーの作品をずっと展示していますが、この45年間、ミレー作品はミレー作品の単体でしか展示会を構成しなかったんですね。
それが45周年という時を経て、ようやくほかの作家、それも日本の作家と一緒に展示する企画が叶いました。その際にお声がけいただいて、インスタレーションという形で展示を行ってきました。
実は、宮崎駿さんが手掛けた『君たちはどう生きるか』の映画のワンシーンにも、ミレーの「種をまく人」の絵が出てきます。原作の『君たちはどう生きるか』の扉絵に「種をまく人」の絵が書いてあります。分かりやすいと思い、両方の絵をスライドに貼ってみました。
ミレーの作品にインスピレーションを得て、自分たちがこれからどのような営みを行って、生活を行って仕事をしていくかというテーマでも展示空間を作りました。ミレーは、フランスの農民の生活や暮らしなどのリアリティを描いた作家なので、その日本人版として、働く姿そのままですとか、脈々と何十年も続いているような生業にフォーカスしながら、ミレーの作品とともに展示空間を作ったというのが、こちらです。この空間の中に僕の作品が展示されています。
ファッションを通じて、難しいテーマにもていねいに向き合う
韮原:coconogaccoの話に移る前に、山縣さん自身のお話を伺いたいのですが、私が拝見した例えば2017年の展示作品なども、戦争で焼け焦げた着物を作品にしていました。ファッションをやっていらっしゃるのか、アートをやっていらっしゃるのか、山縣さんを何をやっていらっしゃる方と表現すればよいでしょう?
山縣:僕としては、「装いの愛おしさを伝える」ということが一番コアにあって、その伝え方がどういう形であれよい、といった感覚です。
それと、例えば、戦後の復興をテーマにしたり、焼け焦げた着物からファッションショーの作品を作ったり、そういったことも自分たちの歴史や、自分たちのルーツのリアリティなどに真っ向から向き合う作業であり、僕らは大事だと思っています。
あえてちょっと難しいテーマにも、ファッションを切り口に向き合っているということです。
韮原:一般的には、ファッションはファッションショーで披露されるもので、アートは美術館やギャラリーなどに展示されているものという認識かと思いますが、山縣さんの活動は境界がかなり曖昧で、カテゴリーに縛られない新しいことをされているのだと私は認識しました。
山縣:そうですね。ですから、ファッション業界で何をやるとかアート業界で何をやるといったことも、もちろん大事ですが、さらにもっと上位の概念の中に自分が表現したいものやすべきことが存在していて、それが最終的にどっちに落ちていくかということは、見る方の解釈や状況次第です。
韮原:それぐらいフレキシビリティを持って活動しているんですね。作品のテーマを決めるときや、クリエーションするときは、何を考えてあのようにさまざまな作品を生み出していますか?
最近、私がおもしろいと思ったのは、土の中に服を1回埋めて、菌が食べたものを掘り起こして着るという展示です。どういうところからインスピレーションを得ているのか? もしくは、何か伝えたいメッセージが決まっているものなのか? どのように作品にしていますか?
山縣:よく聞かれることですが、やはり一番多いのは、自分の日常から湧き上がってくるものがリアリティもあって、作品になりやすいということです。ただ、自分の日常といっても、日々生きている中でさまざまなニュースが目に入ってきます。衝撃的なニュース もありますね。
「この日常というものは、どう形づくられているんだろう」と思ったときに、いろんな歴史などとの繋がりが関係してきますよね。そうしたルーツを調べ、インスピレーションにフィードバックして作品になるということなので、あくまでスタートポイントは日常です。ふとした疑問だったりとか、感じたことだったりとかです。
韮原:先ほどの「装飾を流転する」の作品も、バラク・オバマ元大統領が、アメリカの大統領として初めて広島で献花したことにインスピレーションを得たということを聞きました。その話もぜひ伺えたらと思います。
山縣:(スライドを投影しながら)このファッションは、オバマさんが献花した花の輪っかからインスピレーションを得て制作したものです。なので、(モデルの立ち姿が)黙とうをしているようなイメージがあるんですね。
僕のルーツとしても、父親が長崎出身だということもあります。僕も幼少期は長崎に住んでいましたし、広島や長崎といった土地柄については他の人よりも少し敏感といいますか、暗に考えてしまうところがあります。そうした(原爆で亡くなられた)方が実際にいるということは、もちろんリアルで見たわけではありませんが、自分の中でかなり感情が振れたので、その感情がそのまま出てきているところはあります。
韮原:セントラル・セント・マーチンズ美術大学といえば、ビジネス界でいうハーバード・ビジネス・スクールのような名門ですよね。山縣さんはセント・マーチンズを主席でご卒業されていますが、そういうところで教わったことも影響していますか?
山縣:本当によく聞かれる話ですね、「セント・マーチンズで何を学べるんですか」ということは。正直なところ、先生が何かをメソッド的に教えることは、ほとんどありません。おそらくそこにキーがあって、とにかく自分たちで考えなきゃいけないんです。さらに、インターナショナルな学校なので。
ですが、先生方や周りにいる方々が、表現に対する生徒のディープさを磨こうとする力は相当だと思っています。例えば、何かへの憧れだけで作品を作ってしまうと、「ファッションってこうだよね」「今流行っているものはこうだよね」という感じに、表面的なものだけをなぞっていくことになります。自分の奥から出てきたものではなく、まったく関係のない表現がポコっと出てきます。それは、見分ける力のある方が見れば、何かのものまねだよね、自分から湧き起こったものではないよね、と分かるので。
「あなたからは何が出てくるの?」といった問いかけを、つねにされていたような感じかなと思います。そういう環境にずっと身を置いていたといいますか。
韮原:ジョン・ガリアーノのアシスタントもされていましたが、彼はどういうクリエーションをしていましたか? そこから影響を受けた部分もありますか?
山縣:めちゃくちゃ影響を受けましたね。ジョン・ガリアーノは、ファッション界で本当にクリエイターの中のクリエイターみたいな人です。クリスチャンディオールのデザイナーを経て、2014年からメゾンマルジェラのクリエイティブ・ディレクターをしています。
彼のすごいのは、ありとあらゆるものに対して可能性を見出す力を持っていたといいますか、「あれはダメ」「これはダメ」と言わないんですね。「これもこういう見方を変えたら、こういう可能性があるよね」というふうに、つねに思っている人で・・・。
何というんですかね、例えば、清掃員の女性がふらっと来て、ちょっとしたゴミをふと触ったのを見て、「それ、いいね」とファッションにしたものが、実際に賞を取っていたりするんです。
韮原:それは、どんな表現になっていくんですか?
山縣:(ジェスチャーをしながら)ちょっと形が変わっていて、ただ素材はそのままで……。
クリエイターの中のクリエイターといわれている彼が、「これじゃないとファッションじゃないよね」とは思っていないことを間近で体験したことが、自分の中ですごく大きな経験でした。
ありとあらゆるものに可能性があるという視点は、ベースとして持っておかなきゃいけないと思っていて、それが次にお話するcoconogaccoにも繋がってきます。
韮原:善し悪しをジャッジしないっていうことですかね。
山縣:はい、既存の概念における善し悪しだけで、ジャッジはしないと思います。見方を変えることによって、新たな価値が吹き込まれる可能性があるかもしれないと考えます。そうした見方は、もうまざまざと彼から学びましたね。
その人のルーツを尊重し、エネルギーの源泉を見る姿勢によって輝くもの
韮原:ありがとうございます。それでは、クリエイターを育成しているcoconogaccoについて。育成理念について触れていきたいと思いますが、最初にcoconogaccoの活動について紹介いただけますでしょうか?
山縣:coconogaccoは2008年にスタートし、もう1,000人以上の方が学んでいます。分かりやすい例として、MISIAさんがオリンピック開会式で着た衣装を手がけたのが、coconogaccoに通った小泉智貴くんという方です。テレビ番組の『情熱大陸』にも出ていましたけれど。
これが、ちょっと長いプロフィールになりますが、本当に毎年のように世界各国で卒業生が賞を取るなど、うれしい話が日々飛び込んでくるような状況になっています。
最近のニュースとして、パルコミュージアムで展覧会を行った際に、田中優大くんと田中杏奈さんという二人(「BIOTOPE(ビオトープ)」というユニットでアートワーク部門のグランプリを受賞)なんですが、これが結構異例なことです。
パルコミュージアムは、新人の登竜門ともいわれ、本当に有名な方がたくさん輩出されてきた展示会です。そこに展示されたり、ロエベが主催しているロエベファウンデーションの賞を取ったり、このような形でさまざまなクリエイターを私たちは輩出してきました。毎日新聞が行っている毎日ファッション大賞という、30年以上続いている賞を僕もいただくことができました。
これも最近の話で、イタリアのトリエステという場所にイタリアで初めてのコンテンポラリーファッションミュージアムができました。そこで今、coconogaccoの学生がキービジュアルを制作していて、これをキュレーションしたのがオリヴィエ・サイヤールというパリ装飾美術館のディレクターを長らく務めている方です。その方が作品を選んでいった展覧会の第1回のキービジュアルとして、学生のビジュアルが選ばれたということも、おもしろい視点かなと思います。その展覧会での一部なんですが、ここにもちょっと僕の作品があったりします。
韮原:世界で評価されている山縣さんなので、日本のビジネス界も、もっと注目したらよいのにと思い、今日ご紹介しております。
山縣:ありがとうございます。こちらは、ビジネスオブファッションという、マニアの世界で一番見られているビジネス系のファッションメディアです。
その一ページに、「コムデギャルソンの川久保玲さんの次世代が生まれてくるかもしれない学校」というようなタイトルで紹介されています。イタリアのヴォーグにも、「私(著者)がメンションしたのはcoconogaccoで、非常にイノベーティブである」と紹介していただきました。
韮原:実際にはどんなカリキュラムで、どういうふうに教育をされているのですか。
山縣:コースがいくつかあります。プライマリーコースでは、授業も結構やっていて、ファッションの世界を知ろうといった授業も入れています。ファッションヒストリーや、いわゆるファッションデザインがどういう構造になっているかといった講義は行っていますが、それよりも大事なのが、受講生それぞれのルーツをどこまで掘り下げられるかです。
自分のルーツを自分で見つめると同時に、それを他の人たちともシェアしながら、他の受講生の客観的な意見などを折り混ぜながら成長していくことを一番重要視しています。
韮原:自分のルーツを見つめるという授業は、どういうワークを通して行っていますか?
山縣:まさにいろんな方法があるので、組み合わせて多角的に見つめるのが大事なんですが、まずは自分の記憶を掘り下げていく作業からです。
自分が誰に影響を受けたのか、どういう出来事に影響を受けたのか。それこそ、父親や母親には大きな影響を受けていると思いますし、祖父母やほかの親密な関係性の人たちとの関わりの中で、どういうルーツを持ち、どういう価値観が形成されて、どういう行動を今までとってきたのかを客観的に捉える作業がすごく大事ですね。
韮原:そこから作品作りには、どう導いていかれるんですか?
山縣:まず、ファッションデザインというものが何か、どういうことをやっているかというと、「新たな人間像を提案すること」だと僕は解釈しています。そして、軸となる人間像はどこからやってくるかというと、自分の内側にあったりします。
外側に出てくるものとして、内側にあった人間像が外側に出てくることで(外の世界と反応して)変化していき、それがいわゆるファッションデザインになっていきます。それこそ、本当に自分の心の中にある人間像そのものを探していくといいますか、そういう作業です。
韮原:そういう作業を経て、それぞれの作品を作っていくんですね。そのご指導はどういうふうにされていくんですか?
山縣:例えば、アルバムを作っていくような感覚です。本当に昔の写真だったり、趣味だったり、昔勉強したことでもいいですし、そこにちょっとしたドローイングや何かを作るといった創作作業が合わさっていきながら、人間像とその人間の周りにある空気感が、どんどん熟成されていきます。
韮原:そうして人間像が少しずつ立体的になり、アウトプットされた作品になっていくということなんですね。
可能性を信じることが奇跡に繋がる
韮原:生徒やお弟子さんたちとの接し方では、どんなことに気をつけていますか?
山縣:いろんな方がいて、若い方は中学生ぐらいから80代の方までいますし、日本各地から来られます。
その中で、まず絶対に僕がやらないことは、どのようなルーツであれ絶対に否定しないということですね。変なジャッジメントをしないということを必ず心がけていますし、どのような人であれ、最終的にどのような変化を起こすか、奇跡が起こるかとかといったことは分からないので、誰にでも何かが起こり得て、誰にでも変化を超える奇跡が起こるかもしれないという思いをつねに抱きながら対峙しています。
韮原:身につまされるお話ですね。私なんか、よい、悪いとすぐに言ってしまうので。会社の基準などに照らして、合っている、合っていないとすぐ言ってしまいますが、これはどうなんでしょう?
山縣:企業と学校教育の違いがあると思いますが、僕自身では僕の価値観の枠の中に相手の価値観を入れてはダメだと思っています。僕が知っている枠よりも、もっと外側にその人がいたら、それはそれでもっと伸び伸びあるべきというか、絶対に認められるべきだと思うので、僕も価値観を極力広く持つ努力をつねにしていたいです。
韮原:共通の友人の言葉を借りると、「山縣さんは、ガラクタみたいなものでも絶対に褒める」と。ガラクタに見えるものにも、山縣さんは何を見いだして、どんな奇跡を捉えているんでしょうね。
山縣:ガラクタに見える視点は僕も理解しつつ、ガラクタじゃなくなる方法を何バリエーションも想像する特訓もありますので。そのものが最終的にどう変化していったら、あるいはこう変化させたら素晴らしいものになる可能性があるか、といった想像を同時にしています。
ですから、価値観がつねに変幻自在に変化する状態でいる気がしますね。自分自身も固定化されていないといいますか。
韮原:目の前のものに、もしかしたら世界初というか、新しい何かになるかもしれないといった欠片が見えているんですね。
山縣:そうですね。世界の中でどう評価されるかという意味でいうと、世界のファッションやデザインの文脈もやはり想像しています。どういうレベルなのか、どういうことが大事にされているのか、といったことも僕自身の経験から想像はできます。
ただし、それはある種の西洋的な概念を持っているものです。そのことを理解しつつ、例えば世界の文脈に達する可能性があるかもしれないということは、僕もまたイメージしながら、生徒とコミュニケーションしています。
韮原:もともと警備会社でサラリーマンをやられていた方が、コムデギャルソンとコラボしたという話も伺いました。それはどうやって、コムデギャルソンとのコラボまで行き着いたのですか?
山縣:集中だと思うんですね。自分が好きなものに本当にただ向かっていく姿勢なのではないか、と思っています。本当にファッションが好きで、とくにこの年代のファッションが好きだというその情熱を、服を作っていたりとか、何かを突き動かして人に伝わったのではないかと思います。
その方のファッションを好きで信じる力が凄まじく、それがファッション越しに最終的に伝わったのかな、と。
韮原:その方の最初のころの作品の中や、取り組む過程の中に何か突き抜けるものがあるかもしれないといったことを山縣さんが見出して、「こうすると、こう見えるよ」というふうに指導されるのですか?
山縣:もちろん僕だけではありませんが、つねに生徒の光っている部分といいますか、素で出てきているところは、すごく大事にしていますよね。
韮原:この講演の視聴者の中には、会社の中で人材育成に関わる方が多くいらっしゃいます。世の中にある人材育成と山縣さんの教育方法がかなり違うのはよくわかりますが、何が決定的に違うと思いますか? 何を変えたら、我々も変われますかね?
山縣:僕自身が体験し、日々思うことですが、日本の価値観と海外の価値観は大きく違います。例えば、僕は海外に住んでいて、海外の友人ともよく話をしますが、びっくりするぐらい違うことがあります。仕事に対する価値観や、転職・就職の考え方もまったく違いますよね。
なので、日本人が思う常識ではないものが、世界ではうごめいているということをつねに意識するということ。そして、人との向き合い方についても、もちろん日本の常識を伝えることはよいと思いますが、伝える側がほかの可能性についても理解していて、その人の人生を広げる可能性を一緒に考えていけることが重要だと思いますね。
韮原:私たちにとって欠けている部分な気がしています。ここで質問が来ているので、見てみます。「人と関わるときに感じる葛藤との向き合い方について聞いてみたいです」と。
山縣:いろんな方と向き合わなければいけない、というところですよね?
韮原:そうでしょうね。
山縣:なるほど。これはまた難しいことですけれど。僕は、coconogaccoにいるときと、それ以外の場にいるときとでオン、オフが分かれていると思います。coconogaccoにいるときは、オンに入っている気がします。オンのときは、いろんな方が来ても、比較的かなりフラットに接せられる状況にいますね。
韮原:今はオンですか、オフですか?
山縣:今はオンの方が強いです(笑)。プライベートのときは、人見知りになったりするので。
韮原:また質問がきました。「与えられたことを粛々とやることに価値を見出す若手や中堅が多い気がします。もっとやりたいことを出してほしいと思う反面、それを引き出せないのは自分の力不足とも思います。若手のやる気を引き出すためにという点で、アドバイスをいただければ嬉しいです」とのことです。
山縣:若手の立場やその人の人生に立って考えて…若手が主体となって、その若手のチームの一員に自分がいるといった感覚をもつことでしょうか。(上司としての)自分がある種、若手主導のチームの1人なんだという在り方でいるというか。それが本当にうまくいったら、「もしかしたらこういうことが起こるかもしれない」といった可能性をたくさん渡すといいますか。
韮原:このセッションのタイトルの「奇跡を信じる」に繋がるお話ですね。
山縣:なぜ、こう思ったかっていうと、本当に奇跡を見てきたからなんですね。本当に僕自身、奇跡的なことを信じられる体質になってきています。びっくりするぐらいのことが結構、何度も起こってきました。
ですが、他の例えば教育機関などでは、自分にも奇跡を感じたことがないし、奇跡をほとんど体験したことないという方は、やはり可能性を渡すことができないのかな、とは思います。
そういう傾向になってしまうのは仕方ない部分もあるとは思いつつ、蓋をちょっと開けてもらえると。自分の想定外の奇跡が本当に起こるかもしれないということを念頭に置いていただけたらと思います。
韮原:私もがんばります(笑)。最後の質問です。coconogaccoやリトゥンアフターワーズの今後の活動について教えてください。
山縣:やはり僕は「装うことの愛おしさを伝える」というのが核にあり、ファッションについては文化を形成していく点に興味があるんですね。なので、coconogaccoのように学ぶ場も作っていますが、衣食住といった人間にとって根源的で大事な表現であるにも関わらず、文化的に大切にされていく余地がまだあるもの(についても取り組みたい)。
もちろん、業界(経済規模)としては大きいと思いますが、文化的に大事にされているかというと、結構まだまだだと感じることがよくあります。
分かりやすくいえば、例えば国立の教育機関にファッションを学べるところがほぼありません。本当は文化形成としてすごく大事なもので、楽しいと同時に、真面目にもファッションから捉えるような場が必要だと思っています。
2つの軸で活動しながら、そういうことが少しでも伝わっていったらいいなと思って活動しています。
韮原:さて、「奇跡を信じる人材育成」ということでお話いただきましたが、私自身は、お話を伺って、これまでと全然違う考え方を持たなければいけないなと思いました。
日本の人材育成でも奇跡を信じ、世界で花開く企業や人を生み出すことを、山縣さんのcoconogacoのようにできたらいいなと思いながら、終わりたいと思います。今日はありがとうございました。
山縣:ありがとうございました。
セッション動画全編はこちら
動画申し込みURL:https://survey.hrdgroup.jp/zs/SiClua
2024年01月26日