個のキャリア自律が組織の未来を創りだす~海外駐在員のキャリア開発から学ぶ人材マネジメントのこれから~
ゲストスピーカー:
KDDI株式会社 武井 章 氏
グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社 福田 聡子 氏
モデレーター:
HRD株式会社 福島 竜治
KDDI株式会社
ソリューション事業企画本部 海外事業推進部マネジャー
武井 章 氏
Takei Akira
法人事業部門において、営業、海外事業企画、合弁子会社設立を経て2015年から人事、組織開発、人財育成、評価を担当し、特に海外グローバル事業人財の育成、キャリア開発支援を推進。現在海外現地法人社長のHRBPであり、また海外出向者へのProfileXTを用いたキャリアコンサルタントとしても活動している。
グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社
代表取締役
福田 聡子 氏
Fukuda Satoko
ウィスコンシン州立大学卒。 大学卒業後人材育成の会社に入社し、新人賞をとるなどして活躍するも、バブル崩壊に伴う業績悪化で他業界に転職。そこで、自分が人材育成の仕事が好きであることを再確認し、業界に戻り本質的なグローバル人材育成への興味を深める。 2000年独立、以来、講師、コンサルタント、経営者としてクライアント400社のグローバル人材育成を支える。 各分野のプロフェショナルとの協働の中で一つ一つ目的に基づいた企画・運営を重ねることで、参加者の人生に大きなインパクトを与え「あの研修なしには今の自分はいない」と言っていただくことが無上の喜び。 常に顧客の視点に立ったコンサルティング、個々の研修参加者のキャリアを考えてのアドバイスなど、その情熱あふれるスタイルは顧客から高い評価を得ている。
パンデミックとデジタル化の加速によってビジネスの在り方や市場のニーズが変化する中、働く個人には、これまでのビジネススキルをアップデートしたり、全く新しい領域のビジネススキルを獲得するといった、アップスキル、リスキルの必要性が高まっています。また、終身雇用の終焉によって、企業組織と個人の関係性もこれまでと大きく変化していく中で、働く個人は、自分自身の働く意義をどのように見出し、そして自律的なキャリアをどのように描いていくかについての責任を持つことになります。
本セッションでは、キャリア開発にフォーカスを当て、2名のゲストスピーカーと共にその本質に迫ります。 いま、働く全ての個人は、どのようなキャリア観を持ち、自己を開発していくべきなのか?また雇用側である企業は、個々人のキャリア開発実現のために、どのような人材マネジメントの仕組みを上積みし、マインドチェンジを果たさなければならないのかを考察していきます。モデレーターは、HRDグループ・プロファイルズ株式会社ディレクターの福島竜治が務めます。
セッション動画はこちら
モデレーター:
HRDグループ・プロファイルズ株式会社
ディレクター
福島 竜治
KDDI版ジョブ型人事制度
KDDI株式会社
ソリューション事業企画本部 海外事業推進マネジャー
武井 章 氏
まず、福島がグローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ社(以下、グローバル・エデュケーション)がプロファイルズ社のパートナー企業として「ProfileXT(PXT)」を、KDDI社のグローバル人材の育成や見極めに活用しているという三者の関係性を説明、謝意を表明した後に武井氏のプレゼンテーションに入りました。
武井氏は、KDDI社の通信事業をベースとした個人向けおよび法人向けの事業セグメントに触れた後、自らが担当する、世界25地域・58都市・79拠点に2,200名を擁しているグローバル拠点に言及。「約200名の東京採用スタッフが出向し、約2,000名のナショナルスタッフと一緒にお客様をサポートしています」と説明しました。
同社は、2020年7月末、「時間や場所にとらわれず成果を出す働き方の実現へ、KDDI版ジョブ型人事制度を導入」というリリースを実施。これについて武井氏は、
①市場価値重視、成果に基づく報酬
②職務領域を明確化し、成果、挑戦、能力を評価
③Willと努力を尊重したキャリア形成
④KDDIの広範な事業領域をフル活用した多様な成長機会の提供
⑤「企業の持続的成長」と「ともに働く人の成長」
という5つの柱に基づいた、プロを創り育てる“KDDI版ジョブ型”の新人事制度の主旨を説明しました。
グローバル人材強化のための赴任前研修と人材アセスメント活用
次に、グローバルにおけるIoT、ICT、(通信)キャリアビジネスといった法人向け事業領域を紹介。これらの業務は東京本社にもあり、国内の社員がグローバルに活躍できる素地があることに触れ、「海外で働きたいというWillを持つ人材を求めています」とコメント。本社よりも少人数の海外拠点では、異文化の中でより広範な業務と大きい責任を担うやりがいがあることを強調し、“グローバルで挑戦し成長するプロ”の集団を目指していることが話されました。
続いて、グローバル拠点においては、顧客の属性×サービスの種類×エリアの組み合わせによる多くの領域で専門性を磨けるチャンスがあること、および「KDDIフィロソフィ」や「行動の原則」によって人として成長できる風土について説明されました。
「プロを目指し、人として成長していくことが成果・貢献に繋がるというマインドセットを赴任前研修で伝えています」と武井氏。
その赴任前研修の目的は「現地に立った時から、『垂直立ち上げ』するための研修」であること。特に、その中でのグローバル・エデュケーションによる「ありたい姿の認識」「自身の能力、コアコンピテンシーの認識」についてのプログラムの重要性が説明されました。
同社では、自身の特性や強みの認識と、人財データの蓄積という2つの目的でPXTを活用。「特に前者において、赴任者に価値を提供しています」と武井氏は言います。海外赴任の内示を受けた際に、不安を感じる社員のほうが多く、そういった人に、自身の特性を知るためのセルフコーチングの材料として提供する狙いがPXTにはあります。
海外赴任者は、PXTの自身のアセスメント結果を用いて、過去の具体的なシーンを想起しつつ自らの思考スタイルや行動特性、仕事への興味を振り返り、自らの能力を棚卸し言語化する意義について言及。
一方、4年間で250人分の人財データが蓄積され、赴任者派遣のタイミングでの継続データの取得、人財ポートフォリオの構築、ハイパフォーマーモデルの確立といったグローバル事業マネジメントモデルが構築された意義についても説明されました。
海外赴任者の成否を分けるキャリア観とは?
ここで武井氏の発表が終わり、福島がKDDIの新人事制度のキーワードは「自律と責任」であることに言及。会社として整備するジョブ型人事制度ですが、個人が自己の責任の下に自律的にキャリアを歩むマインドがあって、初めて成果につながることが紹介されました。
福島は、海外駐在員はグローバルにチャレンジするというポジティブな面がある一方、不慣れな環境で働くことの難しさがあるとの認識を示した上で、うまくいく人材といかない人材の分かれ目について武井氏に尋ねました。
武井氏は、「自分がどうなりたいのかを明確に考え、つくっていける人」と説明。上長との1on1の中で、ありたい姿と現在の仕事を照らし合わせたり、赴任者が悩んだ時などに武井氏がPXTのレポートを共有しながら1on1を行うなどして、自らの特性と将来ビジョンとの繋ぎ合わせを行う場を設けていることに触れ、アセスメントの効用に言及しました。
福島は、氷山に例えて、水面上のビジネス環境においてチャレンジな状況が生じた際に、水面下の本人の内面を再認識することに武井氏がアセスメントを活用していることを確認。武井氏は「(アセスメントを通じて自分自身のことを)言語化できることがとても大きいと思います」と応じました。
福田氏は、「KDDIの赴任前研修で、PXTにより自分自身を言語化できた効用を明確に感じたことがあります」とコメント。その赴任者が過去うまくいかなかったこととアセスメントの結果が繋がったことを挙げて、次の赴任機会ではうまくいく自信に繋がっていることを表明したエピソードを紹介し、「自分の強みとWillを言語化し明確にする効用をはっきり感じました」と述べました。
「自分の強みに気づいてブレークスルーできた機会」と福島は応じ、自分自身を客観視する重要性に言及。福田氏は、個人は自分がわかっているようでいて自分に関する情報の書き込みを行ってはいないと指摘し、「自分がわかった上で、次にどうしたいかというステップを踏む」と話しました。
当日の動画はこちら
コンフォートゾーンに安住している日本の弱み
グローバル・エデュケーションアンドトレーニング・コンサルタンツ株式会社
代表取締役
福田 聡子 氏
次に、福田氏がプレゼンテーションを行いました。
まず、IMDによる国別の競争力ランキングを取り上げ、2021年度は日本が31位と過去最低レベルにあることに言及した上で、本題に入りました。
福田氏は、年初での多くのクライアントとのやり取りの中で、経営者の年頭の訓示に最も頻出したキーワードが「自律」であると紹介。「自社を創業した20年以上前から、日本を含めたグローバルで活躍するのに不可欠のキーワードが『自律』であると捉えてきました」と言います。
現在は“VUCA”の時代であること、ジョブ型の雇用環境による個別化、“100年ライフ”による就労期間の長期化といった変化の中にこそチャンスがあり、“自律”はそれを自ら取りに行くものとしても重要であると指摘。その中で、「経営者などからは、個人はジョブ型としての働き方の中で、主体的に世界中の多様な価値観を持つ専門家のもとに行き、ネットワークを構築して新たなビジネスを探すといったことが期待されていると思います」と話します。
しかしながら、現在の日本企業においては、メンバーシップ型により同じ価値観を共有するコンフォートゾーンに安住している傾向を挙げ、「(高度成長期の)以前は強みであったところが、変化の時代は弱みと化し、それがIMDのランキングにも表れていると思います」と指摘します。この要因はステレオタイプの採用や日本的雇用慣行にあるとして、このことによって個人として現状を打破していく動きに繋がっていかないと言及。これを前提とし、「自立を促すための3つの可視化」に触れました。
その1つめは「現実の可視化」。現状の把握と、自分なりの未来予測です。2つめは「自分自身の可視化」。3つめは「社員の可視化」で、2つめと3つめの中で、PXTを活用する機会があります。「これらの背景には、『100年ライフ』があります」と福田氏。健康寿命が延び、定年延長が行われ、「若い」「老い」の概念が変わりキャリアパスのバリエーションが増加。40歳は折り返し地点となり、アンラーニングとリスキリングが求められていると指摘します。
ここで福田氏は、スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱する、「キャリアは100%意のままにコントロールできない。8割は偶然の出来事によって決まる」という計画的偶発性理論を紹介。この理論は、自らが良い偶然の出来事を引き寄せるように働きかけ、積極的にキャリア形成の機会を創出するところに意義があると説明しました。
このように、人生で良い偶然を起こしていくために必要な思考・行動特性を、福田氏は“gALf”(ガルフ)および“パーソナル・グローバリゼーション”というフレームワークによって提供していることを紹介。メガバンクで400名の社員が参加するなど、好評の声が寄せられていることに触れました。
最後に福田氏は、X社の事例として、70歳が定年となった時代における50代社員の自立をテーマに、チャレンジ制度の年齢撤廃やリスキリングプログラムメニューの拡充といった新人事制度が導入され、PXTを用いたキャリア研修の実施により、キャリア形成の個別化を支えている旨を報告。「これまで周囲のことを考えるばかりで自分がどうしたいかを考えたことがなかったという人に、戦略的に考える機会を提供できました」と成果を語りました。
“Like”より“Able”
ここで福島は、 “gALf”の頭文字である“Grid”(やり抜く力)、“Able”(できること)、“Like”(好きなこと)、“foresight”(先見性)において、これまでは“Like”を仕事にすることが大事との考え方があったものの、それより“Able”のほうを重視すべきと聞いたことが「目から鱗が落ちる思いがしました」とコメントし、福田氏に説明を求めました。
福田氏は、「好きなことを仕事にして成功している人は少ないのが現状で、それよりも目の前のことをしっかりできるようにして、周囲から認められ、自信となり、好きになってパッション化していくというキャリアを描いている人が多くいます。変化の時代、なりたい像がわかりにくくなっている中、自身を把握しながらそのようにキャリアパスを回していくという考え方が有効と思います」と回答。「できることを増やし、偶発的なことを必然的なものにすることで、チャンスが訪れるということ」と福島は応じました。
この話を受け、武井氏は「自社も“gALf”を導入し、現状の自分の行動特性と、過去の業績や評価を振り返って、“できる”ことをベースにありたい自分に結び付けることを行い、各自が意義を感じていました」とコメントしました。
「自己の相対化」はキャリア観を醸成する
次に福島は、前日のセッションでトランスコスモスの田渕氏がPXTで自らを理解しリーダーとして変化し成長できたとの発表を例に、人が変化し成長していくには自己理解が重要である理由について両名に問いました。
武井氏は、「ありたい自分を考える時に、自分が何者なのか、どういう行動特性があるのかといった理解がなければうわべだけの願望となり、ありたい姿に向けての行動が続かないと感じます」と回答。
福田氏は、「自分らしさをどう生かしていくかがキャリアそのもの。自分らしさが言語化できていない状態でキャリアを考えてもぼやけてしまう」と指摘しました。そこで、“ほかにはない自分”を把握するためにも、PXTのようなデータで客観視することや、苦手な人や海外の人などいつも接していない人とあえて話すことで、自分を相対化する努力を続け幸せな状態を探すことが重要と話しました。
「自分を相対化するというキーワードが興味深いです」と福島が応じると、福田氏は「海外のビジネススクールでの経営者育成プログラムで、周囲の人と相対化させ、そこからトランスフォーメーションが起こる例が非常に多くあります」と返しました。
学びへの好奇心、混乱に飛び込む勇気
ここで福島はまとめとして、「個々の人材がキャリア自律を果たしていけば、組織の未来は明るいと思います」とコメント。ではどうしていけばよいのか。福島は、リスキリングし変化していくことが求められる中、本人がそのことを“腹落ち”しなければいいものにはならないと指摘した上で、機械学習の専門家のであるトム・ミッチェル教授のコメント*を紹介しました。「これから子供が学ぶべきものは、リベラルアーツ、チームコラボレーション、そして“Learn how to learn”、つまり学び方を学ぶこと」という内容です。「常に学習し続ける力を支えるのは、好奇心ではないかと思います」と福島は述べ、自分を相対化する機会をつくる好奇心の重要性に言及しました。
*参考 HRDグループ企画特別対談:AI時代に求められる人事の在り方とは
【特別対談】AI時代に求められる人事のあり方とは – HRD株式会社 (hrd-inc.co.jp)
最後に福島は両名にキャリア自律に対するコメントを求めました。
武井氏は、「これまでの自分と現在、これからの時代を取り入れながら、ありたい自分とあるべき自分を相対化し、将来像を決めて腹落ちし、環境が変われば変えていくことも含みながら、自分で責任を持ち自らをプロデュースしていくことがキャリア自律だと思います」とコメント。
福田氏は、接点のある海外のビジネススクールの教授が卒業生に向けた言葉、”Look for Chaos”「混乱を探しに行き、自らを鍛えよ」とのアドバイスを取り上げ、「整っている環境にいることに感謝しながらも、混乱に立ち向かうチャレンジをすることで自律という概念が芽生えてくると思います」と述べ、本セッションが終了しました。
当日の動画はこちら
2022年01月28日